【Webzineタマガ】切り取られた極限の生~『奈良原一高 王国』展/タマガ評

奈良原一高『「王国」より沈黙の園』 (1958年 ©Narahara Ikko Archives) 修道士たちは、沈黙のうちに祈りと労働の生活を送り、必要最低限の会話のた め、独特の手話が用いられる。両眼を押さえたしぐさは、「夜」を意味している(東京国立近代美術館)

奈良原一高『「王国」より沈黙の園』
(1958年 ©Narahara Ikko Archives)
修道士たちは、沈黙のうちに祈りと労働の生活を送り、必要最低限の会話のた め、独特の手話が用いられる。両眼を押さえたしぐさは、「夜」を意味している(東京国立近代美術館)

 戦後の写真界に台頭した奈良原一高。鮮烈な問題意識は瞬く間に注目され、世代を代表する写真家となった。半世紀前に表現スタイルを確立付けた作品群「王国」を回顧する『奈良原一高 王国』展が、東京国立近代美術館で開催されている。

 「王国」は、1958年に奈良原が個展と『中央公論』誌のグラビアで発表した一連の作品。第一部の「沈黙の園」でフランス人宣教師たちによって北海道に設立されたトラピスト男子修道院を、第二部の「壁の中」で和歌山市の婦人刑務所を舞台に生きる人々の姿を捉えた二部構成の内容だった。

 これらの作品を展示し、意義を問い直したのがこの展覧会。どちらも外界から隔絶された環境を生きる人間の姿を捉えており、そこには不安や空しさといった感情が見える。言葉で表せない負の感情が危機感となって鑑賞する人の内へと入り込んでくるように感じた。

 同館で開催中の所蔵作品展「MOMATコレクション」で公開されている奈良原の「人間の土地」にも、「王国」と共通したテーマが含まれている。この作品群も桜島の溶岩で埋もれた黒神部落と、炭鉱の島である端島(軍艦島)の二部に分かれている。どちらも、隔絶された場に生きる人間の姿を対比させることで、その世界の背景が浮かび上がってくる。

 極限の状況下とも言える場所で生きる人間を撮り続けた奈良原。非日常の場所で生きる彼らからは、日常で生きる我々に生きる意味を問いただしているかのようだ。

取材・文=田草川健太

 

■『奈良原一高 王国』
東京国立近代美術館(東京・竹橋)、2014年11月18日~2015年3月1日

 

 

奈良原一高『「王国」より壁の中』 (1956-58年 ©Narahara Ikko Archives) 受刑者たちを収容する監房の扉に開けられた小窓から、看守の眼がのぞく。小窓 の上には、小さなカレンダーが貼られている(東京国立近代美術館)

奈良原一高『「王国」より壁の中』
(1956-58年 ©Narahara Ikko Archives)
受刑者たちを収容する監房の扉に開けられた小窓から、看守の眼がのぞく。小窓 の上には、小さなカレンダーが貼られている(東京国立近代美術館)


「タマガ」とは=多摩美術大学芸術学科フィールドワーク設計ゼミが発行しているWebzine(ウェブマガジン)です。芸術関連のニュース、展覧会評、書評、美術館探訪記、美術家のインタビューなどアートにかかわる様々な記事を掲載します。猫のシンボルマークは、本学グラフィックデザイン学科の椿美沙さんが制作したものです。