ImageForumFestival2015レポート1〜『ポール・シャリッツ』〜

 イメージフォーラムフェスティバル2015は4月28日から5月6日まで、新宿のパークタワーホールをメイン会場に開催された。29回目となるが、その前身となる実験映画祭やそれ以前のアンダーグラウンド映画新作展から数えると40年以上の歴史を誇る実験映像の映画祭である。
 今回は国内外の23プログラムのうち3プログラムで、激しい明滅効果(フリッカー)を多用するアメリカの映像作家ポール・シャリッツ(1943-93)が特集され、フランソワ・ミロンによる長編ドキュメンタリー『ポール・シャリッツ』(2014年)も上映された。

『T,O,U,C,H,I,N,G』のフィルム

『T,O,U,C,H,I,N,G』のフィルム

 シャリッツ作品は日本でも70年代から代表作の『T,O,U,C,H,I,N,G』『N:O:T:H:I:N:G』 (ともに68年)が知られており、理論的文章も「映像と音楽の構造」(『フィルム・ワークショップ』所収)や「頁ごとの言葉」(月刊イメージフォーラム1981年12月号)が訳されているが、その死因や私生活についてはほとんど知られていなかった。ミロンの伝記映画は、母や弟の自殺、双極性障害の家系などを明らかにしつつ、ニューヨーク州立大学(SUNY)バッファロー校の同僚(ウッディ&スタイナ・ヴァスルカ、ホリス・フランプトン(84年没)、フリッカー映画で知られるトニー・コンラッド)のほか、息子クリストファー、研究者やキュレーター(ブルース・エルダー、ハワード・グッテンプラン、アネット・マイケルソン、ホイットニー美術館のクリシー・アイルズら)のインタビューで彼の人生を振り返る。貴重な情報が多いが、シャリッツの理論的側面にはあまり触れず、私的事実(出生時に盲目だったことや自己破壊的でエキセントリックな性格、等)から作品の特異性を理解しようとする姿勢は一面的な気がする。シャリッツはむしろ60年代後半から70年代の理論家的アーティスト(ロバート・スミッソンのような)の一人と見るべきではないか。
 とはいえ、この特集上映は、2006-07年パリでの展覧会Figments(200pの図録を出版)以降、没後20年を経て再評価の動きが高まるシャリッツに関するタイムリーな企画だった。

『ポール・シャリッツ』Paul Sharits(カナダ/2014/85分)
監督・脚本・撮影・編集 フランソワ・ミロン
サウンドデザイン・音楽 フェリクス=アントワーヌ・モラン

文=西嶋憲生

ポール・シャリッツ

ポール・シャリッツ