山形国際ドキュメンタリー映画祭2015レポート2『青年★趙(チャオ)』

 『青年★趙(チャオ)』は杜海濱(ドゥ・ハイビン)監督による山西地方に暮す若い青年、小趙の高校生から大学時代までの5年間を捉えたドキュメンタリーだ。
 少年時代の趙は愛国心に満ち溢れている。中国共産党を支持し、人民服に身を包み、中国の国旗を掲げ、「中国がんばれ!中国万歳!」と愛国のスローガンを叫ぶ、小村で趙を知らない人はいない。毛沢東を賛美する歌を歌い、自分の国を誇らしげに語る青年であると同時に、彼は梁啓超(清末民初の政治家・ジャーナリスト)や魯迅(小説家・翻訳家・思想家)、ジャン=ジャック・ルソーの著作にも明るく、暇さえあれば誰かと時勢について語りあう、そんな少年だった。
 その後、趙は一浪した末に成都の大学に合格する。大学では共産党学生連合広報部でカメラマンとして活躍し、少数民族の子供に北京語を教えるボランティアにも参加する。初めての恋人、ラップの得意な友人、金銭感覚の違う周りの学生、小さな村で暮らしていた時とは違う人びととの出会い。さらには、故郷の祖父母の家が再開発のために破壊され、地元有力者の腐敗を目の当たりにし、趙の考え方も少しずつ変わっていく。

少数民族の子供たちに北京語を教える趙

少数民族の子供たちに北京語を教える趙

 「愛国心とは何か?現代の若者はどのように国家を捉えているのか?」
 上映後のQ&Aで、監督は趙と出会った経緯について話した。2009年の9月に監督は初めて趙に出会う。その時の趙もまた友人を10人程連れて、愛国のスローガンが描かれた幕を持って町を歩いていたという。この時、監督はまだチャオ少年を映画に撮ろうとは考えていなかった。数ヶ月が過ぎたころ監督の次回作の会議が行われた。そこで趙少年の話題が上がり、撮影クルーは北京から趙少年の住む山西省の小村を訪れ、撮影が始まる。70年代生まれの監督は「趙という90年代生まれの青年を通して、中国の大陸に住む若者の状況を描こうとした」とも述べた。
 趙という青年はあまりにも特殊なため、中国の青年の代表としてみることは難しいかもしれない。だが、苦労している弟のために涙し、バイトで出会う日本人の礼儀正しさに感心し、少数民族の子ども達のために全力をつくし、祖父母の家の再開発のために憤り、祖父の病気に悲しむ。5年間の中で趙の心は複雑に変化し、国を愛する心と同時に、疑惑の念も持つようになる。こうした趙の一面を、改革解放以降の中国社会が大きく変化している時代背景を持ち、反日教育を受けながらも日本のカルチャーに囲まれて育った90年代の素顔のひとつとして捉えてもいいのかもしれない。

文=韓松鈴


『青年★趙(チャオ)』(英題:A Young Patriot)
中国、フランス、アメリカ/2015/106分
監督:杜海濱(ドゥ・ハイビン、Du Haibin)
撮影:劉爱國(リウ・アイグオ、Liu Aiguo)
編集:メアリー・スティーブン(Mary Stephen)
録音:デルフィーヌ・アメイユ(Delphine Ameil)
制作:蔣顯斌(ベン・ツィアン、Ben Tsiang)
制作会社、配給:CNEX


杜海濱(ドゥ・ハイビンDu Haibin) 1972年、陝西省西安生まれ。子どものころに絵を習い、1993年より北京美術学院で絵画と写真を学ぶ。1998年以降ドキュメンタリー映画製作と撮影の仕事をするようになる。2000年に北京電影学園の撮影学科を卒業。これまでに多数の長編ドキュメンタリー映画と2本の劇映画を監督。主な作品に『線路沿い』(2000、YIDFF2001アジア千波万波特別賞)、『Beautiful Men』(2005、釜山国際映画祭最優秀アジアドキュメンタリー映画賞)、『1428』(2009、ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門で最優秀ドキュメンタリー映画賞)。本作は香港国際映画祭で審査員賞を受賞している。