野外をゆく詩学

平出隆

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 「野外をゆく詩学」は、2006年に芸術人類学研究所が開設されたときに設けられた諸部門のうちのひとつです。この部門にこめられている研究活動の意図は、「詩」のエッセンス=「ポエジー」を人類にとっての基礎的かつ重要な概念のひとつとして探究する、ということにあります。
こんにちまで、近代詩や現代詩と呼ばれてきた領域は、もちろん、「ポエジー」を重要なものとし、他の諸芸術との連関は確かめてきましたが、そこでは文芸としての「詩作品」のみを軸に「ポエジー」を考えてきました。けれども「詩を語る」ことは「詩作品」のみが語りうるものなのでしょうか。

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この部門では「ポエジー」を「詩作品」の外部に求め、科学的に、あるいは客観的に、地道に、または大胆に検証していくことに主眼を置いています。「ポエジー」を狭義の詩や文芸や文学から解放し、その解放されたポエジーを鍵とすることは、人類にとっての、より広い根源的な野をひらき、そして詩と諸芸術との連関を明らかにしようとするばかりか、諸科学と連携して人間存在の本然をとらえようとする試みともいえます。
これまでこの部門では「ポエジー」や芸術の諸問題を土地と結びつける手法を《フィールド・ミュージアム・ネット》と呼び、探究を行ってきました。これはポエジーの発生を見る地点を「小さな聖地」とし、これらを複数、さまざまな土地に見出し、見出すままに「小さな聖地」同士を結び合わせ、日本列島なら日本列島に、または海外の場所にも発見をつなぎながら、この地上に見えない野外ミュージアムのネットワークを構築するものです。
また「ポエジー」を文芸の領域にのみ閉じ込めない、という視点から《エクリチュールとしての造本》という研究活動も行っています。これは、本を書く、出版するという主体的行為を、より物質の方へ一体化させる試みです。
「言語」と「形象」とが根源的な場所でまじりあう、という認識は、すぐれたエクリチュール(書くという行為)は、すぐれた媒質や媒体と一体的に実践される、という認識と隣りあいます。この問題意識から、強い精神性をそなえた出版物の実現、つまり、本の造りかたそのものを根本から変革する、というプロジェクトを展開しはじめています。それもまた、「ポエジー」を「言語」のみに閉じ込めず、「物質」の方へも解放する、という意識的な実践的探究です。

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このような二つの方法、すなわちひとつは、《フィールド・ミュージアム・ネット》という、すぐれた詩人たちや作家たちを中心にした諸事例の、現実の地上における刻印と、仮想空間でのそれらのマッピング。
そしてもう一つは、《エクリチュールとしての造本》による、出版活動そのものの革新であり、それによる「ポエジー」の、「本」という物質方向への解放。
しかし、私たちはこれらの手法をこの部門にのみ留めて用いるのはもったいない、ということに気づいてきました。芸術人類学研究所の他の部門においても、土地と深く関わって研究するプロジェクトは多くあり、研究成果を本や冊子として具体化する計画は多くあるからです。
これらを一体的に表現する手法としての《フィールド・ミュージアム・ネット》と《エクリチュールとしての造本》は、この「ポエジー」探究部門とは別の部門の研究者たちとともに、ネットワーク化や出版を共有できるはずです。これらの手法を通じての効果的な現実的展開によって、芸術人類学研究所そのものの思想の源につながる、豊かな成果を示しうると思います。