あくまでも私見だが、おそらくダーマトグラフの先を尖らせて繊細巧緻に描出された原版から刷られた、この異国の、異次元の騎士ほどに審査会場でオーラを放つものは無かった。大都会の雑踏に紛れて忘れかけていた横顔の美と暗示性をここまで見事に提示したものに久しくふれたことがない。ここにはたんなる素描では実現できない、どこか霊的としか言いようのないものが現前している。

最高度のリトグラフは、とりわけルドンの初期がそうだが、エッチングの錯覚を与える。同様の事態がこの謎めいた―私の気のせいだろうか？―両性具有的な騎士にも生じており、その細部への著しいこだわりはルドンの師でもあった、放浪の銅版画家ブレスダンの魔術的なそれを髣髴とさせる。版画とは良くも悪くも、とりわけ技術の達成度と芸術性の純度とが神秘的としか言いようのない連関のもとに開示される表現形式である。版画にとって技術とは、便宜的な借り物ではなく、すでにその一部であり、それゆえにその言葉のもっとも厳密な意味での反復（刷り）を強いられる。これはその見事な成果と言えよう。