Menuett2

審査員賞

portrait
kanako watanabe
Japan
Title:
Menuett2
Technique:
woodcut
Image Size:
18.5x18cm

審査評: 本江邦夫/美術評論家

渡邊加奈子は、技術と感性の際立ちを競うことに熱心なあまり、本質を見失いがちなわが国の現代版画界にあって、世界のすべてを「黒と白」に転写する独自の手法(木版画だが彫刻刀は使わない)にもとづき、人間存在の薄明を浮き立たせようとする。ほど良い抒情性を漂わせながらも、現代人そのものを問いかける、その断片的かつ概念的な姿勢に非凡なものを感じるのは私だけではあるまい。木版画特有の柔らかな風合いに、ときおり鋭利なものが潜むのは彼女がもともと銅版画を修めていたことの反響であろうか。

渡邊加奈子の繊細きわまる薄明のヴィジョンには思いのほか深遠なものがある。おそらく少女の洋服と足下の一部―こうした断片が全体を指示するのは当然のことだが、今日的問題の最たるものはそうした全体が本当に実在するのか、ということである。刻まれて滲んだ水平線と脚の垂直線に厳格に規定された画面の外にあって見えていないもの、つまり少女の身体性はすでに消えうせているのではないか。本当はただの断片でしかない私たちは、イデアルな全体をただ夢想しているだけではないのか?