ヴラジーミル・ズーエフの《Ballet》は、エッチング、アクアチント、エングレーヴィングなどの技法を併用して、小画面の中にさまざまな表情のディテールを芳醇に盛り込んだチャーミングな作品である。見方次第ではグロテスクともいえるイメージだが、そこにこの版画家の独特のユーモアの感覚や謎の雰囲気が濃厚にたちこめてもいる。画面に宿っている寓話的な気配が、見る者の想像力を誘わずにはおかないのである。

それにしても《Ballet》は特異な構図の作品といわなければならない。二人のバレリーナが脚を大きく振り上げたポーズを描いたものだが、モザイク状に分割された奇妙な円として中央に浮かんでいるコスチューム、伸びた脚や湾曲した両腕、クネクネした指、そして男のようないかつい顔は、優美であるべきバレーの一瞬を珍奇な道化のポーズにすり替えてしまっているようだ。だがこの作品を見飽きないものにしているのは、そうしたディテールの描写を支える技術的な確かさであるだろう。蔵書票でも知られる版画家らしい蠱惑的な小画面に大いに魅せられた。