[title] Institute for Art Anthropology INFORMATION

May 10, 2010

IAA研究会「自然の産婆術」報告

5月1日に行われた研究会「自然の産婆術」maieutike vol.1/精霊のかよう道筋の報告です。

好天のもと、開始となった研究会。 前半には分藤大翼氏(映像人類学)と高木正勝氏(音楽家/映像作家)の作品上映+解説。 後半は井藤昌志氏(LABORATORIO主宰/木工作家)、大淵靖子氏(馬術アーティスト)、 石倉敏明(神話研究)をまじえ、5人でのクロストークがおこなわれました。

哲学者ソクラテスは、自分を産婆に見立てて、知を生み出す手伝いをする者とし、 その作業法としての問答法を「産婆術(maieutike)」と呼びました。 今回の研究会は、ソクラテスの産婆術ではありませんが、そうした知性を生み出す実践の場を 立ち上げることがきっかけとなりました。

分藤氏の映像作品『Wo a Bele』は、カメルーン共和国の森に暮らすピグミーと呼ばれる 人々(バカ族)の暮らしを撮影したものです。 分藤氏は、彼らと生活をともにする中で生まれる距離感や、彼らが目に見えないさまざまな気配の ようなものを「精霊」と呼んで敬意をはらっていることを話しました。 そして、そのような「気配」に身を近くして生きることは、決して遠いものではなく、 私達も身につけている普遍的な知性ではないか、と述べます。

高木氏とIAAのコラボレーション作品《ホミチェヴァロ》に出演した大淵氏は、撮影時のことを 「場所の状態や天気や風の具合など、いろいろな条件がこちらの意志と関係なく かみあったとき、すべての要素が調和して『いい映像が撮れた』と思えた」と振り返り、 馬に乗る時にも、自分よりも他の要素の大きさを感じざるを得ない、と言います。 高木氏もまた、音楽を奏でる時、しだいに楽器を弾く自分が主体ではなく音や楽器が主体にもなり、 両者が相互におりかさなってくる感覚を語りました。

木工作家の井藤氏は、幾年もの歳月を経た古材を扱うとき、 その古材の癖をそこなわず、自分の「こうしよう」というエゴを主張しないことに 細心の注意をはらうことなど、職人として素材と向き合うときの体験を語りました。

こうした対称性と呼べるような世界観は、神話において昔から語られてきたことですが、 ものづくりによらず、ジャンルを越えて起こる共通感覚のようです。 そこには有形無形を問わず、自分とは異なる対象への畏敬の姿勢があることも共通しています。

このような終わりのない語りの中から、異なるジャンルに通低している「産婆術」が 見えてきたクロストークとなりました。

この研究会は今回が第一回。 今後、さまざまな場所でこうした研究会を開催していくことを目指します。

ポスト @ 2010/05/10 20:01 | 研究会

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