No 03 くぬぎ太郎さん(TARO WORKS)

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プロフィール・受賞歴
1979年東京都生まれ、福島県育ち。2003年に多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻を卒業し、株式会社INAX(現・株式会社LIXIL)に入社。主にトイレ、洗面、浴室の周辺機器のデザインを担当し、在職5年の間にグッドデザイン賞を4度受賞。2008年に退職し、趣味で描いていた色鉛筆のイラストでフリーランスに転向。色鉛筆の温かいタッチと色使いを活かして、女性や子ども向けの書籍・雑誌で表紙や誌面のイラストを手がける。徐々に表現の幅を広げ、現在はPCによるイラストや図版、インフォメーショングラフィックスの制作、書籍・雑誌などのデザイン・DTPも手がけている。

インタビュー
聞き手:安次富 隆

くぬぎくんの同級生は個性的な学生が集まっていたのですが、その中ではとても真面目でおとなしい存在と思っていました。ですから、趣味で描いていた色鉛筆のイラストを持って「会社を辞めてフリーランスのイラストレーターになろうと思っている」と現れた時は、正直驚きました。素敵なイラストを描いていることも知りませんでしたし、おとなしいと思っていたくぬぎくんに、ほとばしる情熱と決意を感じたからです。いくら絵が素敵だからといって、イラストレーターで食べて行けるのだろうか?と思ったけれど、直感的にくぬぎくんは大丈夫ダ!と思ったことを今でも覚えています。そしてそれは現実となって嬉しく思っています。

Q1:4度もグッドデザイン賞を受賞し、プロダクトデザイナーとして順風満帆だったINAXを辞めて、イラストレーターとして独立しようと思ったきっかけは何ですか?

グッドデザイン賞は皆で受賞するものなので、早いうちから担当商品を任せてくれた上司をはじめ、人と環境に恵まれた結果です。 特に順風満帆という意識はありませんでしたが、入社5年目の「これから」という時期に辞めてしまい、申し訳ないことをしたと今も思っています。
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株式会社INAX時代に担当した商品【※無断転載厳禁】

イラストレーターになろうと思ったきっかけは、在職中にギャラリーで開いた展示が好評で、出展した絵が完売したことでした。 その出来事も今考えれば値付けが安かったからなのですが、当時は皆が褒めてくれるので、やり直しが効く年齢のうちに挑戦してみようと、調子に乗ってしまいました。

とても謙虚に答えてくれていますけど、「作品が安いから買う」という人はあまりいないと思います。作品を本当に気に入ったからこそ買ってくれたのではないでしょうか? 人に褒められて「調子に乗る」のは大切なことですね。なぜなら、それは人が言ってくれたことを信じている証だから。くぬぎくんには、そういう謙虚さと行動力があると思います。

Q2:今回の展示作品のことを解説してください。

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いのちのケア(書籍装画、協同医書出版)

協同医書出版から出版された、同名の本の装画として描かせていただきました。 流産、死産、先天的な障害を抱えての出生など、悲しい現実に直面したお母さん、お父さんの心のケアをする活動をされている方の本です。 表面の二人はお母さんとお父さん、裏にいるのは赤ちゃんで、離れた場所にいても気持ちは一つということを表しています。 デリケートなテーマですが、前向きな気持ちになるための本なので、暗い印象にならないように気をつけました。

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動物たちの3.11(書籍装画、エンターブレイン)

KADOKAWAエンターブレインから出版された、同名の本の装画として描かせていただいた絵です。 2011年3月11日に起きた東日本大震災では、動物たちも多くの被害を受けました。 そんな身寄りをなくしたペット達を、保護する活動をされている方の手記です。 出来事は悲しいことですけれど、活動されている方は前向きで一生懸命で、活動によって救われた動物も多いので、陰と陽を含んだ微妙な猫の表情にこだわりました。

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図書館(機関誌扉絵、四谷大塚)

進学塾の四谷大塚が出版している機関誌「Dream Navi」の、特集コーナーの扉絵として描かせていただきました。 講師の方々が生徒に推める本を紹介していく内容で、図書館のような喫茶店のような空間を表現しています。 中学生という子供でも大人でもない世代に向けた本なので、明るい色調でも重厚感のある雰囲気を心がけました。 壁のくぼみには後から本の画像が入り、絵の上にテキストも載ってくるので、担当のデザイナーと擦り合わせながら制作を進めました。

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森の精2009(自主制作)

特にテーマはないのですが、以前から描いてるキャラクターです。 少し広めのギャラリーでの展示があり、見映えのする大きさで描いてみようと思いました。 色鉛筆で描くのは楽ではありませんでした。

Q3:多摩美のプロダクトで学んだことが今の仕事に活かされていることってありますか?

現在は平面の仕事をしているので、プロダクトとは無縁のような印象を持たれることが多いですが、社会やクライアントのニーズを理解して、自己表現と折り合いをつけていくというベースは同じだと思っています。 単なる自己表現に終始するのではなく、相手のニーズに合わせて提案したいと思う気持ちは、大学でプロダクトデザインを学んで身についたものかもしれません。 それから在学中は、「これでもか!」と課題漬けにしていただいたので、忙しさへの耐性がつきました。 同時に複数の仕事をこなす要領も身についたと思います。

Q4:最後に在校生へのメッセージをお願いします。

日々の課題制作お疲れ様です。 私も学生時代は課題に追われて、半年くらい胃腸の具合が悪くて物が食べられなかったりしていましたが、当時以上に忙しい経験はいまだにしていません。 しかしプロダクトのカリキュラムは、過密だった分とても実践的で、会社での実務にもスムーズに入ることができました。 また、多摩美は伝統があって規模も大きいので、クリエイティブな職場には必ず一人は卒業生がいて、後輩には何かと目をかけてくれると思います。 ですので、安心して社会に出てきてください。 ムッとしたり、戸惑ったりすることもあると思いますが、皆さんが身近に接している先生は凄い方ばかりなので、言われたことは素直に受け止めた方が身のためです。 勉強でもサークルでも遊びでも、今目の前にあることにしっかりと取り組んで、無事に卒業されることを願っています。 偉そうに言ってごめんなさい。

人に優しく自分に厳しい、くぬぎくんの個性が伝わりました。どうもありがとうございました。

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