No 05 神長 遼平さん(マイクロネット株式会社)

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プロフィール・受賞歴
2010年  多摩美術大学美術学部生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻卒業
同 年    マイクロネット株式会社入社
2012年  『boya fit』がグッドデザイン賞を受賞

インタビュー
聞き手:安次富 隆


学生時代の神長くんが、1年次の「入学制作」で、制作した「水の上を歩くプロダクト(MINAKAMI RUNNER)」と、「卒業制作」で制作した「音のカーテン」は、発明的な機構の設計からファイナルデザインまで全て自力で作り上げた点で共通性があり、それは今回出展してくれる顕微鏡用の目当て『boya fit』にも繋がっているように思います。

僕の学生時代の最初と最後の作品で、とても思い出深いです。 「水の上を歩くプロダクト(MINAKAMI RUNNER)」は、起き上がり小法師の原理で常に直立姿勢を維持することで、まるで水面に立っているような感覚で移動できることを目指したモビリティです。
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水の上を歩くプロダクト「MINAKAMI RUNNER」(1年次の最初の課題「入学制作」作品)

「音のカーテン」は、スピーカーとモーターの原理の共通性に着目し、音楽の電気信号をモーターへ直接送ることで、音の抑揚を回転運動で再現できることを発見。回転に様々な素材を組み合わせることで、音楽を可視化する表現を探りました。 どちらも独自の機構が作品の中核にありますが、本質的に共通しているのは”感覚や体験をかたちにしたい”という着想が根幹にある点です。
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音のカーテン(卒業制作)

「水の上を歩いてみたい」「音楽が目に見えるってどんな感じだろう」そんな発想を軸に「じゃあこれを実現するにはどんな仕組みが必要だろう」と考えていきました。 今回出展させて頂く顕微鏡用の接眼目当て『boya fit』も、「坊や(boya)の手のひらのような優しいフィット感を再現したい」という着想が出発点にあります。 どんなものであれ、いつも具現化したいのは目に見えない感覚や体験です。 そして、これらをかたちにしたいと考えたら、とにかくやってみるしかないんです。言葉や絵だけでは仮想の域を超えることはないですから、とにかく実現しなきゃ意味がないんです。そうなると、ひたすら実験を繰り返します。「水の上を歩くプロダクト」は実際に人工池に通って実寸大の試作品を浮かべて試行錯誤しました。「音のカーテン」でも最終的に全長5メートル以上ある可動モデルをつくったのですが、そんな大きなものを効率的に、かつ美しく回転させる機構を考えるのに苦労しました。 そしてこの機構部分が固まってくると、最終的な外観は自然と決まってきます。 こんな感じで、自分のなかで機構設計もファイナルデザインも、目に見えない感覚や体験をかたちにするための手段であり、そこに線引きはないですし、むしろ全部やらなきゃ意味がないというのが本音なんです。

Q1:神長くんがデザインで大切にしていることは何ですか?

やはり、”感覚や体験をかたちにする”という点です。どんなものでも、この出発点がないとむしろ始められないです。例え要求されていなくても、自分で見つけてそれを軸に機構と外観を考えていきます。いわば、外観が肉、機構が骨であれば、それらをかたち作るDNAのようなものでしょうか。これが強いほど、引っ張られるようにすべてが組み上がっていくような感覚があります。 次に大切にしているのは、実践と実験です。どんな些細なことであっても、やってみないとわかりません。想像が10を生むとしたら、実践は千も万も生みます。例えゴールが想像通りであっても、その過程にたくさんの発見をもたらしてくれるんです。その分時間もかかるし遠回りにになってしまうんですが、どれだけ小慣れてきても一生意識してやっていきたいと思っています。 この2つがしっかりしていれば、外観は自然と決まってきますし、2つが強いほど外観は洗練されていく。勝手に成長していくような感覚です。 ひとりで機構から外観、さらには今の仕事でもそうですが広告までやらなければならないとなると、常に自分を客観視することが結構大変です。僕自身もともと集中しすぎると盲目になるタイプですから。そんなときに、先に述べたDNAの部分がしっかりしていると、迷うことが少ないんです。

Q2:今回の展示作品のデザインのポイントや苦労したことなどを教えてください。

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boya fit:顕微鏡用接眼目当て(マイクロネット株式会社)

最終的な機能と外観上のポイントは本体に大きくあいた穴でしょうか。基本的に目当ては「遮光」を目的にしたものですから、穴があいているというのは大きな特徴だと思います。これは「優しいフィット感」を実現するための機能です。これが無いと、顔を当てた時に完全なシェル構造になってしまうので、柔軟なクッション性が生まれないんです。そこで参考にしたのは、やはり人間の手です。
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開発当初、当時4才だった社長の息子さんがいるのですが、彼が顕微鏡を覗くとき無意識に両手を接眼レンズに当て、そこに顔をあてがうんです。そこには視線を安定させたいという機能的な面と、覗いた先にどんなものが見えるんだろうという不安に対する安心を得たいという面もあるんじゃないかと思ったんです。この機能と感覚を再現することがこの製品の根幹にありました。 実際にやってみると、親指と人差し指の側面が頬骨と眉骨を受け止め、それに伴い親指と人差し指の付け根部分が顔を覆うように光を遮ってくれます。まさにこれをこのまま再現しようと思考錯誤した結果、頬骨と眉骨を受け止める面と外側のシェードという3つの要素に分解して考え、それらを再構築するように形をつないだことで、大きく穴のあいた形状に行き着きました。これによって可動域が大きくなり、同時に今までに無い優しいクッション性とフィット感を生むことがでるようになったのですが、その後絶妙な感覚を探るのにはとても苦労しました。ひたすら原型をつくり型をとり、様々な硬度のシリコンで成形を繰り返しました。シリコンという素材の特性上いちいち型からはじめないとミリ単位の調整もできないので、ここは大変でした。
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カタログに掲載された”boya fit”の使用写真。モデルは神長くん本人。

それでもここまでは学生時代の”作品”と変わりない部分で、本当の苦労はここからです。大量生産するには金型をつくらなければいけないし、会社にとっても初めての試みだったので、生産してくれる工場を探すところから始めなくてはいけませんでした。さらにはカタログもホームページの製品ページまで自分で作らなくてはいけません。それでもなんとか国内の工場で金型をつくってもらい、100個ほどの小ロットで生産し、WEBやカタログを通して販売したのですが、これが驚くほどまったく売れなかったんです(笑)そんなこんなで一度は日の目を見た製品でしたが、あっという間に失敗という結果に終わりお蔵入りになってしまったんです。このときはとても悔しかったです。しかし、その後半年以上が経って、これは説明すると長くなるので割愛しますが、様々な外的要因が働いて再び復活してみようということになり、この間に自分で温めていた改善点も盛り込んで再度量産し販売することになったんです。これが今の『boya fit』です。 こういった経験を通して、必ずしも自分の努力と苦労だけが成果物につながるわけじゃない、一見関係ないようなことの日々の積み重ねや、人と人とのつながりが、製品をかたちづくっているんだということを学びました。ほんとにこの製品と今の会社に学ばせてもらっているものは大きく、感謝しています。

Q3:多摩美のプロダクトで学んで良かったと思うことは何ですか?

『自分はプロダクトデザイナーだ』と思えないでいられているところかなと思います。どんな表現でも受け入れてくれる懐の深さが多摩美のプロダクトにはあります。職業としての、方法論としてのプロダクトデザインではなく、その根幹、ものづくりの根底や向き合い方を教えてもらった気がします。僕は結局プロダクトデザインが好きなのでこれを表現手段としてお給料を頂いていますが、根っこがあればほんとは表現手段なんてなんでもいいんです。僕自身いろんな表現に興味があるし、僕の周囲の卒業生たちも、卒業から5年が経った今、みんなそれぞれ色んな道を強く歩んでいます。そんな、「ものづくりの根っこ」を育めた実感に、とても感謝しています。

Q4:最後に在校生へのメッセージをお願いします。

とにかく先生方と話しをしてほしいなと。教室でも研究室でも、立ち話でもいいです。 ちょっとした雑談が、いつまでも心に反響する財産になったり、ほんとにあるものです。僕の中にもたくさん生きています。 今は僕たちがいた頃と違い、プロダクトやグラフィック問わず様々なジャンルの人たちが切磋琢磨していると聞きます。表現が広がっていくことは良いことだし、いろんな刺激に囲まれた環境は羨ましいです。 でもだからこそ、自分を見失うことも多いんじゃないかと想像します。 かしこまって「相談」するのも逆に緊張すると思うので、そんなときは気軽に(しかし敬意をもって)「雑談」してみることをオススメします。

神長くんの”感覚や体験をかたちにする”という想いは心に響きました。そのために大事なことは、”実践と実験”であると。”boya fit”でもそれを有言実行していますね。企画からデザイン、設計、そして広告に至るまで、一人でやってのけたことに脱帽します。”boya fit”のカタログ写真のモデルまでやっていた時は、本当に凄い!と思いました(笑)。 大学1年の頃から地道に続けているデザイン姿勢は、さらに大きな実を結ぶに違いありません。 今日は本当にありがとうございました。

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