No 09 池田 明教さん、松下萌黄さん(株式会社パイロットコーポレーション)

パイロット
プロフィール・受賞歴 

池田 明教(いけだ あきのり)
1972年、福岡県生まれ。

1997年、多摩美術大学美術学部生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻卒業。
同年、株式会社パイロットコーポレーション入社。2008年よりチーフデザイナーを務める。

受賞歴
グッドデザイン賞受賞13点、日本パッケージデザイン大賞金賞受賞など。

松下 萌黄(まつした もえぎ)
2012年、多摩美術大学美術学部生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻卒業。

同年、株式会社パイロットコーポレーション入社。

受賞歴
グッドデザイン賞2015 BEST100(フリクションスタンプ)


インタビュー
聞き手:安次富 隆 

池田くんは卒業制作で失敗して、就職も決まっていたのに留年してしまいました。あの日のことは今も良く覚えています。そして次の年「高齢者施設で使用するテーブルと椅子」をデザインしました。それも良く覚えていて、テーブルに収納できる椅子が一体化しているのですが、池田くんの理想通りにはなかなか可動しなくて苦労していました。決して器用ではないけど、相当なエネルギー注ぎ込んで作り上げた力作でした。その時からアクセル踏みっぱなしでパワフルに動き続けているのが池田くんのイメージです。 池田くんは事あるごとに連絡をくれるので、池田くんがいるお陰で私もトーンダウンせずに頑張れていると感謝しています。ブレーキ踏むと後ろからど突かれそうですし。笑


Q1:池田くんがチーフデザイナーとしてデザインで大切にしていることは何ですか?

池田:
チーフの責務として、「デザインチームが良いデザインを創出し続けること」は当然のことですが、その為に各デザイナーの長所を更に伸ばしてあげること、つまり「人を育てること」も大切な責務、チーフとして大切なデザインのひとつです。

ONE FOR ALL
 


これは、私がチームに対して掲げているスローガンであり、大切にしていることです。 !「ひとりひとりがプロとして、世の中の為になるデザインを常に真剣に考える」 「世の中の為を考える前に、まずは共に働く仲間(スタッフ)に感謝し、自身の能力を最大限発揮する」 そんな思いを込めています。 これらは当然のことなのですが、仕事に対する慣れや、時間に追われてしまうことで失くしがちなことでもあり、会社という組織の中で、デザイナーがこのことを常に意識し実行し続けることは意外に難しいことです。 だからこそ、チームが良いデザインを創出し、ひとりひとりが成長し続ける為に、決して忘れてはならないことだと考えます。 !そして、このスローガンを掲げた理由は、以下の私の経験に基づいています。 「自身のデザインが商品となって世の中に出て、それがヒットして、賞もいただくことが出来れば嬉しさも増すに違いない。」入社当時はこの思いが、私の大きなモチベーションになっていました。 しかし、夢中でデザインしてそれらを達成しても、数を重ねる毎に、なぜかその嬉しさはすぐに小さくなっていきました。 現在、自身のデザインに対する満足度を100%とすると、商品がヒットしたり、賞をいただいたりすることで得られる満足度は10%程度です。 !およそ、ひとつのプロダクトデザイン(商品)は、企画、設計、生産、販売など多くの人が関わることで生まれます。 !私がデザインを手掛けた、「ドクターグリップ」、「タイムライン」、「色彩雫」なども企画、設計、生産を始めとした多くの仲間と思考錯誤しながら作り上げた結晶です。 「難しいけれど実現させたい!」と強く願う企画者がいて、「これなら行ける!」と一瞬で仲間を束ねることが出来たレンダリングとモックアップがあり、「池田がデザインしたものなら売れる!必ず実現させてやるから任せろ!」と言ってくれた設計者と生産担当者がそこにはいました。

ひとりひとりが、持てる100%の力を出し合いながら、ひとつの商品を作り上げていく。 「世の中を良くしたいと願う、この仲間の思いの為にも頑張りたい。」という気持ちが、更に自身の努力を促す。寝食を忘れる程、デザインしていて本当に楽しかった。 そして、その時の充実感を何度も感じたいという思いが、今でも新たなデザインへの活力となっています。 私にとって、仲間と作り上げるプロセスそのものがプロダクトデザインの魅力と価値であり、それはまるで「毎日が文化祭」の様な楽しさです。 !その後、それらはヒット商品、ロングセラー商品となり、グッドデザイン賞やパッケージデザイン賞もいただく事も出来ました。真摯に、誠実にデザインに取組むことで、自然に結果もついてきました。 何を作ったかは大切ですが、どんな仲間と、どんな思いで作ったかはもっと大切だと考えます。なぜならその思いは、その先にある商品を使ってくれるユーザーを想う事にも自然と繋がっているからです。 共に作り上げる仲間への感謝と、自身の努力があってこそ、その先のユーザーがあり、結果として商品のヒットや賞があると考えています。 !この経験に基づくスローガンが正しいかどうかは分かりませんが、「思いを込めたチーム」を作ることは、デザインにおいても、例えばスポーツにおけるチームと同様に、個とチームの成長の為に必要だと考えます。 !「ヒット商品を作ることや賞をいただくことよりも、自身にとっての価値を、自身の力で見いだすことが出来る。そして、答えを求めるのではなく、答えを作り出すことが出来る。」その様なデザイナーを育てることが私のチーフとしての目標であり、これまで私を育ててくれた方々への恩返しでもあります。
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Dr.Grip G-spec: 誰でも一度は手にした事があるプロダクトではないでしょうか。初代ドクターグリップを正常進化させる事が目標で、ヒット商品に手を加えることの難しさと責任を感じました。商品化まで3年を要しました。
パイロット
TIMELINE: 口金と筆記先端が二段階で出没する画期的なボールペンです。商品、パッケージ、広告まで一貫して担当した思い出深いデザインです。 こんな筆記具を待っていたとセールスに言ってもらえたことは、今でも忘れられません。
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iroshizuku-色彩雫: 「パイロットの万年筆用インキは魅力がないとお客様に言われて悔しい。」という企画担当者の思いも背負い、懸命にデザインした美しい24色のインキです。ブランドコンセプト、ビン形状、商品名のみならず、日本の四季を想起させる様な美しい各色名も考えました。インキ色と色名の語感が相まって、より豊かな時間を演出します。

Q2:今回の展示は後輩の松下萌黄さんが企画してくださっているようですが、デザインのポイントを教えてください。

松下:
手を使って書く(描く)行為には、およそデジタルにはない、個性、感情、空気感といった、「その人らしさ」が強くあります。手書きの便りをもらった時の喜びは、誰でもあると思います。 人にとって、書く事は日常的な行為です。感情までをも表現し、伝えることが出来る道具としての筆記具の側面を見ていただける機会になればと思っています。 !また私は、「自分がデザインしたものを使ってくれる人の喜ぶ顔を見たい」という想いで多摩美のプロダクトに入学しました。 今は、多くの人に使ってもらえる身近なものをデザイン出来る喜びと、その責任を感じています。デザインが生活と心を豊かにする。その具体例を、展示を通じて感じていただけたら幸いです。 尚、展示にあたり、2014年度卒業の岩尾玄樹君も手伝ってくれています。
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FRIXION BALL KNOCK(フリクションボールノック/消せるボールペン)
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FRIXION BALL Slim (フリクションボールスリム/消せるボールペン極細)
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FRIXION stamp(フリクションスタンプ/消せるスタンプ) ※フリクションシリーズはグッドデザイン賞2015 BEST100を受賞致しました。

Q3:お二人に伺いたいのですが、多摩美のプロダクトで学んで良かったことは何ですか?

松下:
「こうしたいという意志を持つこと」、「自身に負けず嫌いでいること」、「一生懸命でいること」、これらの気持ちを持ち続ける大切さを教えていただいたことです。 そして、それらは学生時代に多くの課題に試行錯誤しながら、周囲の仲間と切磋琢磨する中で身に付いたものです。 私はデザイナーとしては、まだまだ未熟で、チーフの池田には、よく怒られているのですが(笑)…そういう時、それらの気持ちを忘れていたことに気付かされます。 ちょっと堅苦しい言葉も知れませんが、その情熱はデザイナーに必要なものだと強く感じています。 

池田: 「大学は山に囲まれた郊外にあり、都内までリサーチや展示会に行くにも一日仕事。 当時、Macは一台100万円。当然、誰にでも買える物ではなく、携帯電話も普及以前。 情報収集は基本的に聞き込み、人づて、書籍を購入しての独学など。 プレゼンボードは写真を現像し、ワープロから文字を拡大出力、切って張っての温もりある手作り(笑)。 当然、課題は多く、講評は厳しい。」 !私が過ごした学生時代は、まだこの様な環境でした。 ですから、手足や五感といった全身を使って情報収集、制作体験し、課題に向かっていました。 その様にして得たものは消えることなく、自身の血肉となり、今も生きています。 その様な時代、環境で育てていただいた事に感謝しています。 なぜなら、社会に出て、大学時代よりも厳しいと思ったことはないからです(笑)。 「強く折れない心と、常に前に進む力」を育んでもらえた事に、深く感謝しています。

Q4:最後に在校生へのメッセージをお願いします。

素晴らしいデザイナーになれる(かも知れない)方法を三つお教えします。
、パソコンやスマートフォンばかりに頼らず、手足や五感の全てを生かし、情報収集、体験をすること。また、ストアチェックのリサーチの際は店員に直接話を伺い、生きた情報を拾う事を大切にすること。相手の目を見て話す事はコミュニケーション能力向上への一歩となります。

、プレゼン能力向上の為に、自身が伝えたいことよりもまず、「プレゼン対象がどの様な相手なのか」を知ること。その次に「どうすれば、より伝わり易くなるか」を考える。 伝わりやすさの為に、自身のデザインについて、「結論から話す」、「機能と情緒を分けて話す」という事もポイントです。


、真剣に教えて下さる先生、高い志を共有出来る仲間が身近にいること、バイト先の先輩や後輩など、自身の周囲にいる人々に感謝すること。 そして何より、高い学費を払ってくれている親への感謝を「毎日」忘れないこと。 !未来を担う素晴らしい後輩達へ 「好きなことを仕事にする」ということはとても幸せなことです。 勿論、楽しいことばかりではありませんが、好きなことを仕事にするという覚悟は、自身の成長を促し、「どんなことがあってもブレない心」へと繋がります。 それは、我を通すということではなく、好きなことに対する覚悟と自信を軸に、様々なことに興味が広がり、仲間の意見にもしっかりと耳を傾け、共に頑張ろうという思いにも繋がるということです。どうか好きなこと、没頭出来ることを沢山見つけて下さい。 社会や世界には、皆さんが未だ知らない、素晴らしいものがたくさんあります。 皆さんの未来が、光輝くことを心より願っています。

池田くん、松下さん、ありがとうございました。 文具は老若男女、誰にとっても身近なプロダクトです。敷居が低く、親しみやすく、誰からも愛されるパイロットコーポレーションの商品デザインの背景には、人とのつながりを大切にし、人の立場に立って考え、感謝の気持ちを忘れない姿勢があることが強く伝わりました。この姿勢の大切さは、どのようなプロダクツにも通底すると思います。教え子から教えられたと感謝しています。ありがとうございました。

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