【レポート】Image Forum Festival 2018レポート(1)

イメージフォーラムフェスティバル2018は8月4日から12日まで、渋谷のスパイラルホールとシアター・イメージフォーラムを会場に開催された(京都、横浜、名古屋にも巡回)。前身となるアンダーグラウンド・シネマ新作展(1973-75)や実験映画祭(1981-85)から数えると45年の歴史をもつ映像フェスティバル、32回目の今年は29プログラムを上映(ほかにインスタレーションやレクチャー、ワークショップ。Nプロかわなかのぶひろ特集は会期後に上映)。今回から開催が5月から8月に変わり、スパイラルホールがメイン会場となっただけでなく、フェスティバルの骨格といえるコンペティション部門が国内の一般公募から「東アジア・エクスペリメンタル・コンペティション」に形を変え、日本招待作品という枠もなくなってベテラン作家もコンペに参加することになった。全体のテーマは「ヴォイセズ」(Voices、多様な声たち)だが、特集は「エクスペリメンタル・パノラマ」と「フィルムメーカーズ・イン・フォーカス」という新しい2セクションとなった。今回は映画祭の構成自体が大きく変わった節目の年といえる。

「フィルムメーカーズ・イン・フォーカス」では、2017年6月に亡くなった写真家・山崎博の追悼特集があり多くの作品をデジタル化して上映、萩原朔美の追悼作品『山崎博の海』(2018,20分)もとてもいい作品だった。またオーストリアの構造映画の先駆者で銀行員からアンダーグラウンド映画へという特異な人生を歩んだクルト・クレン(1929-1998)のデジタル修復版(オーストリア映画博物館による)も16作品上映、映画生誕100年に作られた実質的な遺作というべき『48/95 映画の千年』(1995,3分)では、ウィーンの大聖堂を撮影する観光客をきわめて短いカットで撮っていき最後に被写体を写すが、撮る人を撮る、見る人を見るという構図の中で映画の視線やカメラの本質を描いたものだった。

さらに日本では演劇関係者の間で知られていたクリストフ・シュリンゲンジーフ(1960-2010)という特異な演劇人の、社会介入(インターヴェンション)的アクションの映像作品(ドキュメンタリーとフィクションがまざりあうような)が8本まとめて上映された。『友よ!友よ!友よ!』(1997,写真中央がシュリンゲンジーフ)は、彼が演劇を劇場内での戯曲の再現ではなく社会(観客)への問いかけ、問題提起と考え、劇場外での社会的行為、介入、挑発を社会演劇と考えていることを典型的に示していた。ハンブルク駅に居ついたホームレスやジャンキーを旧警察署に集め、このプロジェクトの参加者たちとともに食事、討論、余興、デモをする一種の社会実験で、即興性とデタラメと冷静な判断力がまざりあった過激なプロジェクトだった。さらに過激なTVショー『U3000』(2000-2001、日本では放映不可能だろう)はコントロールされた狂気のような狂騒的で分裂的なパフォーマンスだった。社会と軋轢を起こす(そこに問題を浮上させる)異端の挑発者シュリンゲンジーフ49才の若さでガンで急死したことは惜しんでも余りある。彼は2010年アフリカのブルキナファソで(ドイツ政府の援助により)オペラハウス(映画演劇学校と診療所も併設)を建設計画中に没した。死後の2011年、ベネチア・ビエンナーレ(ドイツ館)で金獅子賞を受賞した。(文=西嶋憲生)

 

●「エクスペリメンタル・パノラマ」から

『カニバ』Caniba (フランス・アメリカ/デジタル/95分/2017)

製作・撮影・編集・監督ルシアン・カステン=テイラー、ヴェレナ・パラヴェル/サウンドデザイン・ブリュノ・エランジェ

『カニバ』は1981年にフランスで起きた「パリ人肉事件」の佐川一政と彼の実弟、またその関係性に迫ったドキュメンタリー映画だ。2017年ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門審査員特別賞を受賞し注目され、今回のIFFでも多くの観客を集めた。監督はハーバード大学感覚人類学研究所に所属する人類学者で、2012年IFFでも上映された海洋ドキュメンタリー『リヴァイアサン』などで世界的に高く評価される映像作家ルシアン・カステン=テイラー(ルーシァン・キャステーヌ=テイラーとも表記)とヴェレナ・パラヴェルである。

佐川一政はフランス留学中に同じ大学に在籍するオランダ人女子学生を殺害し、遺体の一部を食べたとされる。精神鑑定の結果不起訴処分となり、1984年日本に帰国。その後、漫画や小説を執筆したり、TVやアダルトビデオに出演するなどメディアを賑わせたが、脳梗塞で倒れた後、実弟に介護されながら生活している。

本作は佐川一政という人物を通して「カニバリズム」についての考察がなされている。撮影手法として極端なアップやピンボケが多用され、手や口などを断片的に映し出す独特なカメラワークが印象的であった。劇中では事件に対する佐川や弟の考えがインタビューや過去に出版した漫画を通して語られ、「カニバリズム」という理解し難い欲望や、彼と弟の不思議な関係、スクリーンに大きく映し出される顔や手、変化の少ない画面に不快感や緊張感を覚える人も少なくなかったのではないだろうか。(文=4年・深川)

『マニフェスト』Manifesto(オーストラリア・ドイツ/90分/2015)

製作・脚本・監督ユリアン・ローゼフェルト/撮影クリストフ・クラウス/編集ボビー・グッド/出演ケイト・ブランシェットほか

『ブルージャスミン』『キャロル』などで知られるオーストラリア出身のアカデミー賞女優ケイト・ブランシェットが1人13役を演じ、『共産党宣言』(1848)から「ドグマ95」まで著名な思想家や芸術家、建築家らの宣言や主張(マニフェスト)の精神を、現代に生きる私たちに具体化してみせる作品でる。内容は作家の視点から進められ、既存の芸術や現代芸術に対し作家側はこうあるべきだと批判し主張する。

13役は、ホームレスの男、株トレーダー、ゴミ焼却場の従業員、墓地での弔辞、子供を持つ主婦、科学者、パンクロッカー、プライベートパーティを催す女社長、舞台の振付師、人形師、人形、ニュースキャスター、小学校の教員など。ゴダールの引用、ダダイスムやコンセプチュアルアート、資本主義の限界など、取り上げられる内容に応じて役も変わっていく。清掃工場のゴミの山、テーブル上の食べ残し、ブランシェット扮するホームレスなども芸術のメタファーにみえてくる。極め付きは小学校教員が絵を描く生徒たちにジム・ジャームッシュの引用「オリジナルなんてない。インスピレーションや想像力を刺激するあらゆるものを盗め。それがあなたの本物となる」を教え込むシーンで、会場の笑いを誘っていた。

本作はマルチスクリーン・インスタレーションとして展示されることもあり130分ヴァージョンもある。(文=3年・大島)

短編プログラム「たどり着かない物語」は映像による謎かけを用いた4作品からなり、政治的な暗喩、人物探索、虚実のトリック、巧妙な論理的遊戯というそれぞれ含みを持ったストーリーが展開する。4つの物語に共通している点は、いずれもテーマを追求した後、新たな謎が生まれることだ。『サウンドマンの死』では作品に流す良い音とは何か、本当に自分たちの仕事には意味があるのかと疑問を持ち、偉人の様な人形のモデルとされる白人男性の正体の謎を描く『分身』では、本人の暮らしぶりから彼は本当に人形のモデルなのかと疑いが出てくる。それぞれ異なる戦場の経験を語る男性兵のカットから、そもそも彼らは本当に戦争に参加し戦っているのかと疑問を呼ぶ『思い出された映画』。ナレーションが映画作品を引用しながらメタファーを論じるうちに主体がずれていき、何について論じたいのかすらわからなくなってしまう『論旨(注釈付き)』。

4つの物語は最終的に結論が導き出されることはなく、観客は謎を残されたまま置いていかれる。ふつう物語は起承転結によって終幕を迎えるが、この作品はその裏返しであり観た者にエンドロールの先を考えさせる。どこまでが本当で偽物なのか分からなくなり、謎を解決する時に新たな謎が生み出される。あらゆる可能性と答えを秘めているからこそ「たどり着かない物語」は終わった後も私たちの頭の中で流れ続けるのかもしれない。(文=4年・木村)

『マタンギ/マヤ/M.I.A.』Matangi/Maya/M.I.A.(スリランカ、イギリス、アメリカ/デジタル/96分/2018)

監督・製作スティーブ・ラブリッジ/編集マリナ・カッツ、ガブリエル・ローズ/音楽ダニ・ハリソン、ポール・ヒックス

M.I.A.(エムアイエイ)の22年間を記録した映像をもとに制作されたドキュメンタリー、2018年サンダンス映画祭特別審査員賞受賞(ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門)。監督ラブリッジはM.I.A.の長い友人という。

アーティスト、ラッパーとして世界的に有名なM.I.A.だが、彼女にはつねに批判や誤解がつきまとう。マタンギ・マヤ(ステージネームM.I.A.)の父親はスリランカで武装闘争を行うタミル人抵抗組織のオリジナルメンバーだった。内戦を逃れるため彼女は難民としてイギリスに渡った。そこでポップミュージックやヒップホップに出会い、アートを学んだ。そこから表現者M.I.Aとしての自分のバックグラウンドやアイデンティティと真正面から向き合うリアルな姿が映像に収められている。

彼女はつねに表現することを恐れない。彼女にとって表現することは生きることである。他の誰に何を言われようと自分の思うままに生きる強い姿に見る者は勇気をもらい背中を押される。ドキュメンタリー映画であることを忘れるほど劇的な95分間だった。(文=3年・丹羽)