小川 哲央《東京にいます。》

 《東京にいます。》と宣言する此方から、名宛人である宮沢賢治へ。この音像は、彼方への手紙としてある。しかし名宛人との安易な重なりを、円盤の在り処は否定した。自明の深い隔たりが、差出人と名宛人との間には、開かれている。手紙が通る位相の谷が深くなるとき、むしろ両者は屹立し、際立つ。
 「銀河鉄道の夜」に対応する収録曲「空き缶と父」は、微視的な家族風景を取り出した。調べは、父の追想をこの現在地から鳴らす。しかし星座の配列は遠く、響応するにはいまだ深い夜が、見上げられる。[K. Miyaura]