土田 果南《彼方を掬うための予覚》

 どこか慈しむように接写された、生家の断片。実際には避けがたい、現実の解体を前に撮られたものである。つくり手はしかし、愛惜の情を残しただけではない、と思える。印刷機を潜った像は、透写紙を挟まれ、スキャンされ直す。幾重の層を見せながら、最後には梱包をもって、封じられた。
 本であるからには、読者の手が、家屋の消えた未来で「掬う」か。ふっと、書名の「彼方」が匂った。水のような無数の位相に、沈められた記憶たち。あるいは古い傷痕のように、消え入らず、潜められた記録。[K. Miyaura]