【開催レポート】第6回「土地と力」シンポジウム『物質と生命』

当日の記録来場者数は162名、実質満席となりました。アンケート結果によると、約半数が学外からのご参加、回答者の89%の方より「とてもおもしろかった」「おもしろかった」との感想をいただきました。ご来場くださった皆さま、誠にありがとうございました。
下記より当日の模様を抜粋しお伝えいたします。

2018年度 多摩美術大学 芸術人類学研究所+芸術学科21世紀文化論 共催

第6回「土地と力」シンポジウム『物質と生命』

会場:多摩美術大学八王子キャンパス・レクチャーホールB

日時:2018年11月10日(土) 開演13:15(開場12:45) 終演16:10

入場無料・事前予約なし

シンポジウム概要文

芸術表現は「もの」と「こころ」の間、物質と生命の相互作用から生み落とされる。すべてが情報に還元されてしまい、「もの」の概念が根本的に変容しようとしている今この時、あらためて人間と物質、生命と環境、表現と作品の関係を根本から問い直す。「もの」の秩序を更新し変革していくことは、「こころ」の秩序を更新し変革していくことにつながる。巨視的な人類史の上に立って、芸術表現の現在を繊細かつ微視的に解剖し、その未来を提示する。
芸術と人類学、詩と批評、理論と実践を新たな次元で総合することを目指して活動を続けてきた芸術人類学研究所のメンバー全員が集い、「場所」と「イメージ」に続き「物質と生命」の諸相を論じ尽くす。
〈「物質と生命」はともに動的なものである。〉冒頭の挨拶で鶴岡真弓所長は「トランスポート(移動)」と「トランスフォーム(変容)」という二つのキーワードを示した。IAAが探究する希望はこのような移動するもの、ひとところにとどまらないもの、変容するものにこそ存在すると述べ、会場に「芸術人類」の創造性を訴えた。

この鶴岡所長の挨拶を受け、本シンポジウムでは芸術と人類学が交錯する地点から「物質と生命」の持つ新たな可能性を探った。

平出隆所員の報告「物の秘めたる言語」は、野外でよく目にする石の写真を読みとくことからはじまり、「物」が秘める言語について考察した。とくにDIC川村記念美術館で開催された「言語と美術――平出隆と美術家たち」展における若林奮、河原温らの作品と、青木淳の空間構成に触れながら、言語と美術が交差する様相について言及した。とりわけ書物の「谷間」の位相に着目し、その「谷間」が美術や詩の間に深淵を開くことを示唆した。
鶴岡所長は、報告「〈未生〉の支持体(シュポール)――文字と文様からの生命誕生」において、支持体が持つ生命力と表現力について論じた。支持体は単純な土台ではなく、生命や希望を化肉させ、自らも生まれ変わる肉肌であった。アイルランドのケルズ修道院で9世紀初頭に完成された『ケルズの書』は、子牛皮紙を支持体としている。その上に写字し文様を施す、ということは、いのちをいただき、その生き物の肉に聖性を宿らせる覚悟のミッションであった。
さらには縄文時代の土偶などの例を交えながら、誕生から死、そして再生を願う空間で人類が「物」に装飾してきたことの意味を問うた。
安藤礼二所員の報告では、目下「縄文論」を執筆中の安藤所員が、考古学者 渡辺仁らの先行研究の議論に言及しながら人類の「最初の豊かな社会」としての狩猟採集に光を当てた。「アイヌ・エコシステム」に見られる自然環境を上手に利用した持続可能なシステムと縄文時代の人びとの生活とを比較しながら、精神の生態学的共通性を論じた。さらには自身の身体に神話的な記憶を刻みつけるような造形的な思考方法について言及するとともに、農耕文明、帝国、国家をこえる遊牧社会の今日的可能性について議論を展開させた。
港所員は、東日本大震災直後の福島で撮影した、忘れがたい一枚の襖絵写真を取り上げた。その後、オランダ、木曽三川パークへと移動しながら、異なる時間と空間のあいだで循環する風景について論じた。フェルメールの絵画に焦点を当てつつ、絵画を描くことと地図を製作することの深い関係、すなわち世界を描写/記述する人間の身振りのつながりを語った。風景は、様々な旅や記憶の中で、動物や人を含めた全ての存在に支えられ、それらの「物質と生命」とともに動き循環していることを述べた。
椹木所員は「山形ビエンナーレ2018」で行われていた特別展示「現代山形考―修復は可能か?地域・地方・日本」の諸作品を紹介し、「もの」の概念に含まれた「滅び」の側面を指摘した。そして国宝や文化財ではなく、数々の無名の民衆の「よすが」として、あらわれては消える「もの」の修復の意味を問うた。ものと肉の中で引き裂かれ、そのジレンマの中で、ものでも肉でもない何かを探している「われわれ」の姿が提起された。
上記のように「物質と生命」というテーマにおいて、それぞれの問題提起、視座、関心が広く深く重なりあいました。会場の参加者のみなさんとともに、臨場感あるシンポジウムが実現しました。

右は所員5名の集合写真。

 

 

 

 

 

 

詳細は、当研究所発行の刊行物『Art Anthropology』14号(2019年3月発行)に掲載しております。詳細は研究所Webサイト「刊行物ページ」をご覧ください。