IAA について

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多摩美術大学 芸術人類学研究所(Institute for Art Anthropology, Tama Art University)では、「芸術」という営みを数万年におよぶ「人類史の時空からとらえなおす」研究をおこなっています。従来、考古学や文化人類学などの研究に限定されてきた人類の創造活動を、初めて総合的芸術研究の中で正面から対象化し「芸術学×人類学=アート・アンソロポロジー」を発進させました。すなわち芸術人類学とは、人類史の長大なスパンにおいて過去・現在・未来へと進むあらゆる「表現(リプレゼンテーション)」を、自然と人、人と物、人と人の「関係性において刻々に生成するもの」としてとらえ、そこから人の有機的な心身のはたらきを明らかにしていく行為です。そのため私たちは「アート&デザイン」「ヒューマニティーズ(人文科学)」「サイエンス(自然科学)」の3領域を結びつけ、わが国と世界の民族・文化集団の芸術の生成と展開を先史からみつめ探究しています。人が自然から恵みを受け、その心・知・術によって創造してきたもの表現の蓄積を掘り起こすことによって、私たちは21世紀の現在が最も必要としている、真の「生命力の再生」へ寄与していきたいと考えています。

IAA の活動

IAAでは6つの研究部門があり、いずれも広く社会にかかわり、下記3つの交流的創造とクロスした活動をおこなっています。

1.《学科間交流・大学間交流=インター・ディビジョン、インター・ユニヴァーシティ》

①多摩美術大学学内の諸学科、美術館・図書館、ゼミナール、課外活動を通じて在学生、卒業生、「タマビ」をめざす受験生をはじめ、幼児・初等教育機関との交流をおこないます。
②他大学や研究機関などと相互交流と連携活動を推進しています。また全国の美術館・博物館、図書館、一般企業の展示館、アトリエ、映像スペースなどと、積極的なコラボレーションをおこないます。

2.《地域交流=インター・ローカリティ》

研究所が所在するこの多摩地区をはじめ全国のコミュニティ、スクール、学びのシェアスペースや企業との交流を通して知識と実践をつなぐプログラムを推進しています。

3.《国際交流=インター・ナショナリティ》
①海外の大学・美術館・博物館・研究機関・企業などとの共同研究・展示プロジェクトなどを推進しています。
②これらの諸活動の成果を内外の各種メディアなどを通じて発信しています。

所長メッセージ

「芸術人類学 Art Anthropology/アート・アンソロポロジー」は、近代欧米で構築された文化/社会人類学者による狭義の民族芸術研究とは異なる新しい学問、ディシプリンです。すなわち私たちは、人類が生みだした 全芸術の時空に降り立ち、先史時代から現代までそして未来へと、数万年以上のスパンを辿り、現代にこそ甦る「芸術の根源」に強い光を当てるものです。

その実践的入門書であり弊研究所の成果を結集した『芸術人類学講義』(ちくま新書、2020 年)は、思いがけずもコロナ禍の始まりの直前に刊行されました。人類はこれまでも幾多の難局を乗り越えるとき、現代の医療や科学技術に匹敵する「心技」を発揮する「芸術」によって救済されてきました。本書の序文にも示したとおり、私たちは「人類」を単なる「マン」ではなく「芸術人類/マン・オヴ・アート」として捉え直すところから出発しています。あらゆる意味での「自と他」を、区別・差別・分節してきた眼に見えない呪縛から存在を解き放ち、「死からの再生」を願いつづける、「マン・オヴ・アート」の表現と思考。その長い道のりを歩んできた「芸術」を総合的に読み直す時が、いま正に到来しているといわねばなりません。

人類は、もはや人類だけの救済を祈る者ではなく、「生きとし生けるもの」の新生を願う者へ変容しなくてはならない。美術・デザイン・考古・歴史・宗教・哲学から言語・映像・批評まで多彩なアプローチを掲げ、私たちは人類が営む芸術の思考・実践を、掘り下げていきます。毎秋恒例の「土地と力」シンポジウムや、展覧会、研究会の開催、刊行物『Art Anthropology』の発行などによって、研究成果を学生や社会一般の方々にも公開しています。

今後もさまざまな内外機関との連携によって本研究所活動が豊かな結び目となっていくことを目指します。引き続き、多摩美術大学・芸術人類学研究所の諸活動に、みなさまからのご支援、ご指導を宜しくお願いいたします。

多摩美術大学 芸術人類学研究所 所長
鶴岡 真弓