【レポート】釜山ビエンナーレ2016_椹木野衣所員

《釜山ビエンナーレ2016》

「Hybridizing Earth, Discussing Multitude」をテーマに
9月3日から11月30日まで開催される韓国「釜山ビエンナーレ2016」は、
3つのプロジェクトで構成されています。このうち釜山市美術館を会場に
日本、中国、韓国における90年代以前の前衛美術を紹介するプロジェクト1では、
日本側のゲスト・キュレーターとして椹木野衣所員の他、
建畠晢学長・上田雄三氏をはじめ、様々なかたちで
本学の卒業生・講師が参加しました。

当研究所の椹木野衣所員による「釜山ビエンナーレ2016」の
現地レポートを掲載します。ぜひ、ご覧ください。

 

※日本、韓国、中国のキュレーターが集ってのシンポジウムの様子

2_Busan Biennale 2016-05
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2016年夏、「釜山ビエンナーレ2016」プロジェクト1のキュレーションのため、韓国南部の港湾都市、釜山に滞在した。プロジェクト1は、アーティスティック・ディレクターのユン・チェガプの企画で、中国、韓国、日本の第二次世界大戦後の前衛美術を、釜山市美術館の3フロアに集めて同時に展示するという、世界でも初めての挑戦的な試み。そのうち日本のパートを担当することになったのだ。

とはいえ、東アジアという複雑な歴史的背景や外交関係を持つ三つの国の前衛美術は、20世紀初頭に欧米で第一次世界大戦後、近代国家と国民が血で血を争う大量破壊と暴力そのものに対抗するように前衛美術が生まれたときの特徴である「国際性」を、もとより備えているわけではない。むしろその逆だ。

三つの国の前衛は、それぞれの国が備える政治的情勢や民族性を色濃く反映し、かえって孤立している。それを一堂に出会わせる試みが、そうそう簡単にいくはずがない。

日本は前衛美術に関しては中国、韓国と比べたとき、はるかに長い蓄積を持つ。しかしそれも、実は日本がかつて韓国を併合し、中国へと侵略戦争を仕掛けたことと、まったく無縁ではありえない。

やはり、通常の美術史研究や学術調査の結果発表に終わっては意味がない。そのため私は、戦後の日本の前衛美術の起源に、それぞれ「ヒロシマ」と「日本国憲法」を扱ったChim↑Pom と柳幸典の作品を置き、核戦争と無条件降伏の結果が戦後、逆説的に日本の前衛美術の「豊かさ」を形成したという批評的観点に立って展示の全体を構成した。

椹木野衣

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※釜山ビエンナーレ2016、プロジェクト1(日本、中国、韓国の前衛美術)、釜山市美術館

1_Busan Biennale 2016-46
 

※展示風景、出品作家の堀浩哉氏と一緒に撮影

3_Busan_IMG_5164
 

※展示風景、手前よりChim↑Pom、折元立身氏の展示、奥に柳幸典氏の赤いネオンの光

4_Busan Biennale 2016-26

スライド上の写真:椹木野衣所員・提供

 

名称:「釜山ビエンナーレ2016」
開催期間:2016年9月3日(土)-11月30日(水)
公式URL:http://www.busanbiennale.org/
 

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