「表現を問いかける学びの場へようこそ」
私たちは何時から絵を描いて来たのでしょうか、そしてなぜ絵を描くのでしょうか。あの有名なラスコーの洞窟壁画は約2万年前に描かれたとされています。さらに古い約4万年前に描かれた洞窟壁画も確認されています。また、同時期に角や骨、石などで作られた動物の彫像や人物像も発見されています。ただしこれらはあくまでも現代人が見つけ出したものであって、さらに古い時代の未知の絵画や造形物が、この世界のどこかに存在しているかも知れません。ですから人が何時から絵を描いてきたかを明確に言い当てることは出来ませんし、その問い自体があまり意味のないことかも知れません。
それではどんな理由で描かれてきたのでしょうか。洞窟壁画を例にすると、祈りや呪術的なもの、あるいは描くことそのものに喜びを感じたからなど、この問いに対しても推測でしか答えられません。ただどちらにせよ、人々はそれぞれの営みの中で絵を描き続け、また鑑賞し続けてきたのです。
それは世界中の美術館、博物館、遺跡や宗教的施設、あるいは個人のコレクションなどはもちろんの事、われわれの生活すべての中で、人類の歴史とともに絵画や美術作品は引き継がれ、またそれらは同時に新たな表現行為を更新し続けたことの厳然たる事実も示しているのです。あなたや私の作品が突然現れたわけではありません。数万年もかけてバトンが引き継がれたのです。
ですから、現在の私たちとラスコーで壁画を描いた人たちとは確実につながっています。あのレオナルド・ダ・ビンチやミケランジェロ、セザンヌ、ピカソとだって変わりありません。そんな壮大なリレーの中で、われわれが果たさなければならない役割、そして責任とは何でしょうか。この問いへの答えも一つではないでしょう。われわれ一人ひとりが問い続けること、ひょっとしたらそのこと自体が表現と呼んでもいいのかもしれません。
さて、それでは初めの問いを皆さん自身に投げかけましょう。あなたは何時から絵を描いて来ましたか、そしてなぜ絵を描くのでしょうか。
多摩美術大学美術学部
絵画学科油画専攻
小泉俊己