我楽他宗 —— 民藝とモダンデザイナーの集まり

 

 

会期 2021年2月25日(木) – 3月6日(土)
会場 多摩美術大学アートテーク・ギャラリー2F

 

「我楽他宗(がらくたしゅう)」とは、 大正期から昭和初期にかけて活動していた、蒐集好きで自身の「趣味」を追求する人びとの集まりです。我楽他宗を率いたのは三田平凡寺という人物でした。日本全国から蒐集家、知識人、芸術家らが集い趣味品の交換会などをおこなう一方、日本における伝統とモダン、歴史、宗教、スピリチュアリティなど多岐にわたって議論を交わし、その内容を掲載した雑誌を刊行するなど、ダイナミックかつクリエイティブな集団でもありました。

メンバーには、版画家の板祐生、彫刻家の河村目呂二と画家でデザイナーの妻ゆきのに加え、ポーランド人芸術家ステファン・ルビエンスキー、インド人陶芸家のグルチャラン・シング、チェコ出身の建築家アントニン・レーモンド夫妻のように、国や文化を越境し新たな時代へ影響をおよぼしたアーティストやデザイナーがいました。本展は、近代において「我楽他宗」が東西の多層的な文化接触をもたらし、国際的かつ芸術的なネットワークであった側面に光をあてる初めての試みです。

レーモンド邸の庭園にて 1923年 ©️Delhi Blue Pottery Trust

 

 

我楽他宗、民藝、神智学:重層するネットワークの焦点


三田平凡寺(みたへいぼんじ・1876-1960)、本名を林蔵、明治末から「平凡寺」を名乗り、自身の「趣味」、つまりは何の役にも立たない無用の「もの」たち、しかしその「もの」たちにいったん心惹かれてしまったならばそれらを集めることが人生そのものとなってしまう「ガラクタ」蒐集をきわめ、遂には自身を「大本山趣味山平凡寺」とする「我楽他宗」を開創するに至る。

「宗」といっても、なによりもそこで重視されていたのは、それぞれ固有の「趣味」への徹底性と平等性(平凡性)であった。「趣味」をきわめることにおいて身分や性別、国籍などはまったく関係ない。「もの」に対する高度な知識ではなく「もの」に対する深い愛情が、ただただ「もの」とともに我を忘れて遊び戯れることだけが、必要だったのだ。

平凡寺は「ガラクタ」蒐集をきわめるためにはパートナーの協力が不可欠と説いていたので夫婦で参加する者たちも多かった。そのなかから何人もの女性蒐集家が誕生する。さらには、異邦からさまざまな理由で日本を訪れていた者たちも歓迎した。「ガラクタ」の「タ」は、「多」であるとともに「他」であらなければならなかったからだ。

「我楽他宗」に参加した異邦人の一人に、後にインド独自の現代陶芸を確立するグルチャラン・シン(Gurcharan Singh 1896-1995)がいた——当時、本人も「シング」と名乗っていたようであるが、以下、現在で最も通用している「シン」とする(*1)。このシンを導き手として、チェコに生まれた建築家アントニン・レーモンド(妻のノエミとともに)、ポーランドに生まれたステファン・ルビエンスキー(「伯爵」であった)も参加する。「我楽他宗」という「趣味」のネットワークに参加した異邦の芸術家たち、シン、レーモンド、ルビエンスキーは実はもう一つ別のネットワーク、「神智学」という新しい世界宗教のネットワークにも所属していた。

神智学協会はロシアに生まれたブラヴァツキー夫人によって、1875年にアメリカのニューヨークで結成された。ブラヴァツキーはロシア領内で唯一チベット密教を信奉する遊牧民カルムイクのごく近くで生活し、比較宗教学的な知見と最新の科学的な知見(無意識の心理学と進化の生物学)を総合することで、東西を一つに結び合わせる根源的な宗教があらためて見出されたと主張した。それが「神智学」であった。当初、「秘密仏教」(エソテリック・ブッディズム)と称されていた。

瞑想を通して「心」の奥底を探る。そこからさまざまな色彩や形態が生み出されてくる。神智学は、マレーヴィチやカンディンスキーらによる抽象表現の誕生にダイレクトに結びつく。しかも、そうした創造的な「心」は人間であれば誰もが平等にもち、さらに人間を超えて他のすべての種ももっていると説いていた。それゆえ神智学は、女性解放運動や動物愛護運動、さらには社会改革運動とも密接な関係をもつことにもなった。インドにも支部が置かれ、インド独立運動にも積極的に関わった。

「我楽他宗」という「趣味」のネットワークが、その「趣味」の平等性を徹底して追究したがゆえに、「神智学」という新たな世界宗教にして「抽象表現」という新たな世界芸術のネットワークと結びついたのである。それだけではない。シンが日本に滞在していたのは1919年から22年にかけてであるが、その間、シンは柳宗悦やバーナード・リーチの「親しい友人」(柳自身の表現)であった。おそらくは柳やリーチの導きによって朝鮮半島を訪れ、陶磁器や工芸の「美」を再発見している。そのことがシンの陶芸の一つの起源となっている。

つまりシンは、ともに草創期にあった三田平凡寺の「我楽他宗」と柳宗悦の「民藝」の双方と深い関わりをもち、双方で重要な役割を果たしていたことになる。「我楽他宗」と「民藝」を「神智学」が一つにつないでいたのである。ガラクタこそが民藝であり、民藝こそがガラクタである。同時にそれらは、世界で最も新しい芸術表現である「抽象」と無関係ではなかった。「趣味」のネットワークが日本とアジアと世界を、ガラクタと民藝と抽象表現を、宗教と芸術と哲学を一つに結び合わせていたのだ。

人々の世界的な移動と物理的な接触が制限されている今この時であるからこそ、生まれた土地に根付いたまま、ただ「趣味」によって世界と自由につながり合ったネットワークの焦点をなす「我楽他宗」とはいかなる集団であったのか、その諸相を知ることには大きな意義があるはずだ。本展は、おそらく日本ではじめて「我楽他宗」の全貌、その世界への広がりを明らかにするものとなっている。

安藤礼二

本展監修|多摩美術大学芸術人類学研究所所員

 

*1 グルチャラン・シンについては橋本順光「インドの陶芸家グルチャラン・シン」(1)-(4)、雑誌『民藝』第747-750号(2015年3-6月)が最も詳しく、本稿においても最大限参照している。

 

主な展示作品


 

*都合により出品作品が変更される場合があります。ご了承下さい。

 

展示概要


会 期

2021年2月25日(木)- 3月6日(土)


時 間

10:00 - 17:00


休館日

日曜日(2月28日)


会 場

多摩美術大学アートテーク・ギャラリー2F

〒192-0394 東京都八王子市鑓水2-1723

交通アクセス


入館料

無料



主 催

多摩美術大学芸術人類学研究所


監 修

安藤礼二


キュレーション

ヘレナ・チャプコヴァー


協 力

藤野滋

ルビエンスキーコレクション

アヌラーダ・ラビンドラナート

デリー・ブルー・ポッタリー・トラスト

 


 

 

関連イベント


会期中、講演会やギャラリートーク等の開催を予定しています。詳細が決まり次第、研究所HP、Twitter等でお知らせします。

 

 

*来場される皆さまへのご案内:「新型コロナウイルス感染症拡大防止のための対策について」

 

展示ポストカード(PDF)

 

 

問い合わせ

 

多摩美術大学 芸術人類学研究所(IAA)
〒192-0394 東京都八王子市鑓水 2-1723 メディアセンター4F
TEL:042-679-5697 Email:iaa_info@tamabi.ac.jp
URL:https://www.tamabi.ac.jp/iaa/