05 9月 

こんにちは。2017年6月7日(水)、8日(木)に樹脂成型による多摩美リングのワークショップを行いました。今回のブログでは当日の様子に加え、後半ではシリコン型の作り方をご紹介します。(樹脂成型で失敗しないためのコツはこちら)今回のワークショップは日新レジン株式会社様にご協力をいただきました。


1回定員30名の予約制で参加者を募集し、2日間で計4回開催。毎年恒例のこのワークショップは、学生に「樹脂の基本的な特徴や扱い方を学ぶこと」「樹脂を身近な素材として知り、制作に活かすこと」を目的としています。

 

●講義「樹脂の性質と扱い方」
まず初めに講義を受け、樹脂についての予備知識を頭に入れます。


●実験「ウレタン樹脂に水を混ぜてみる」
ウレタン樹脂の特徴の1つに、湿気や水分の影響を受けやすいという点があります。では、水分が加わるとどのような現象が起こるのでしょうか。ウレタン樹脂にあえて水を入れ、攪拌(かくはん)※します。数十秒後、ぶくぶくと気体を出しながら発泡し固まりました。下の画像の左側は正常に固まったもの、右は水を加えたものです。
※攪拌…かき混ぜること

水の影響を受けると気泡の多い穴だらけの硬化物になります。


●実習「樹脂を使ってみよう」
実験のあとは、スタッフのいる各テーブルに移りいよいよ実習です。

1.型の準備
今回CMTELが用意したシリコーン型は2つに分割できる 割型(わりがた) という形状をしています。

シリコーン型の内側のゴミやカスを取り除いてから、離型剤(りけいざい)スプレーを散布します。

スプレーの散布後、型をしっかり固定するためにガムテープを型の周りに巻きます。樹脂を流し込んだ際に割型のすき間から漏れ出てしまうことを防ぎます。これでシリコーン型の準備は完了です。

素材メーカーの技術の方からも専門的なアドバイスをもらいながら進んでいきます。


2.計量

次は樹脂を扱う上で重要な計量です。今回使用するウレタン樹脂は発熱しながら硬化する2液性の樹脂です。主剤・硬化剤を1:1で混合します。


3.撹拌(かくはん)

主剤の中に硬化剤を入れ撹拌棒で約20秒しっかりとかき混ぜます。攪拌のコツを知りたい方はこちら


4.注入

撹拌が終わったらシリコーン型に素早く注ぎ入れていきます。

注型が完了しました。後は10〜15分程硬化を待ちます。完全に硬化するのは24時間後。


5.脱型(だっけい)

硬化が完了したら、型をグネグネとひねらせリングを抜き取ります。シリコーン製の型は伸びる性質を持っているため、手で形をゆがませることが可能です。


6.完成

リング以外の余分な部分をニッパーで切りおとし、切断面をやすりで整えて完成です。

ワークショップは以上で終了です。今回のワークショップは、学生にとって樹脂の特性や扱い方を体感しながら学ぶことのできた機会となったようです。

今回ご協力いただいた日新レジン株式会社様では、今回使用したウレタン樹脂とブログで登場したシームレスシリコーンの他にも透明な封入用樹脂(クリスタルレジンNeo)や、グミのように柔らかい樹脂(グミーキャスト)、また樹脂専用の着色剤なども取り扱っています。様々なサンプルをCMTELにも展示していますので、是非一度お越しになりご覧ください。

※このワークショップは、サポート企業・日新レジン株式会社様にご協力いただきました。

 

 

ここからはシリコーン型の作り方です。写真を交えながら、ちょっとしたコツなどもご紹介していきます。

制作手順を紹介「シリコーン型の作り方」
今回作る型はワークショップで使用したものと同じ、割型(わりがた)です。2分割の割型を作るので、今回はシリコーンを2回に分けて流すことになります。

日新レジンのシリコーンゴムにはクイックシリコーン※とシームレスシリコーン※の2種類があります。
シームレスシリコーン…引き裂き強度に優れており、複雑な形状のものの型取り適しています。
クイックシリコーン…硬化速度が速く、型作りの時間を短縮できます。硬度が高いため、分割型に適しています。

本来、割り型にはクイックシリコーンの方が向いているのですが、今回はシームレスシリコーンを使用しています。理由は、原型が有機的でやや複雑な形をしているためです。またシームレスシリコーン型は柔らかいため注型物が取り出しやすい点も加味しました。複製したい物の形状型からの取り出し方を念頭において適切なシリコーン選びをすることが必要です。


1.用意する道具

シームレスシリコーンセット(硬化剤、計量スプーン、撹拌棒含む)、離型剤、刷毛、計量器、スチレンボード、油粘土、グルーガン
※点線内で囲まれた道具がシームレスシリコーンのパッケージに含まれています。


2.型を作る
今回はスチレンボードの板で型枠を作ります。スチレンボードをグルーガンを使って接着。シリコーンは液状です。漏れださないようにしっかり囲いを作りましょう。角にどうしても隙間ができてしまう場合は内側からもグルーガンを使って埋めていきます。

型枠の完成です。型枠は原型の大きさによってサイズが異なります。今回は内寸、縦95×横125×深さ110mmの型枠を作りました。ちなみに原型の大きさは縦65×横95×深さ80mm。原型よりも縦横深さが30mm大きい型枠を作りました。


3.原型の準備をする
今回原型として準備したのはこちら。3Dプリンターで出力したもので、よく見ると積層のピッチが粗く凸凹した部分があります。スポンジやすりを使いガタガタしている所をやすります

表面のへこんでいる部分が気になったのでパテ※で埋めました。またサーフェイサー※を吹き付け、表面をなめらかにしていきます。シリコーンは微細な凸凹もひろってしまうため、原型の表面処理は最終成果物にそのまま影響します。根気強くやすりましょう
※パテ…くぼみ、割れ、穴等の欠陥を埋めて、表面の平らさを向上させるために用いられる肉盛り用の塗料。
※サーフェイサー…段差、小キズ等を消して均一な質感にするため下地材。


4.原型を粘土で埋める
原型を型枠の中央に置き、写真のように原型の下半分までを粘土で埋めます。

原型と型枠の間は約1.5cmのスペースを空けています。このスペースはシリコーン型の壁ができる空間になります。また、原型の周りの粘土には鉛筆などで凹みをつくります。この凹みが後々樹脂を流し入れる際の型ずれを防ぐ重要な役割をはたします。


5.計量と攪拌
シリコーンも前半のワークショップで使用したウレタン樹脂同様、指定の混合比があり、シリコーンと硬化剤が混ざることで固形化します。シームレスシリコーンの混合比はシリコーン:硬化剤=100:5です。今回はシリコーン500gを使用するため、硬化剤は25g使用します。

シリコーンと硬化剤が均一に混ざるように攪拌棒で攪拌します。この時、混ざりづらい底の方もしっかり混ざるよう意識しましょう。攪拌が足りないと硬化不良の原因になります。


6.シリコーンを型に流す(1回目)
型に流し入れます。シリコーンは一気に流し込むと空気を巻き込んで気泡を含み、硬化後に穴として残ってしまいますゆっくり流していきましょう。

流し終わったら、型に振動を与えて気泡を出します。その後15時間硬化させます。シリコーンは高温高湿だと硬化が早くなります。そういった環境下で硬化させれば、時間を短縮することもできるようです。


7.シリコーン型1/2完成
シリコーンが完全に硬化したら型枠を外します。型の1/2が出来上がりました。

慎重に粘土を剥がしましょう。この時注意しなければならないのが原型が型から外れないように気をつけること。原型がシリコーン型から外れてしまうと、原型を元に戻しても間にわずかな隙間ができてしまいます。この後もう1度シリコーンを流す工程の際に、その隙間に流れ込んでしまう原因になってしまいます。型の精度が落ちることになります。


8.離型剤を塗る
今回使用する離型剤は、塗ると膜ができるタイプのものです。シリコーンはシリコーン同士で付着する性質があります。この後2度目のシリコーンを流す工程の時、既に硬化した1層目のシリコーンと2層目が付着しないように離型剤を塗りましょう。塗っておかないと、分割のできないシリコーンの塊になってしまいます…。

原型を避けて、シリコーンの表面のみに離型剤を塗ります。


9.シリコーンを型に流す(2回目)

シリコーンの周りをスチレンボードで再度囲みます。

残り半分にシリコーンを流し込みます。再び15時間硬化。


10.型枠をとる

囲っていたスチレンボードをはぎとります。密着している2層の型を開くと、中にパプリカの形の空洞ができています。また2つのシリコーン型の接合面には凸と凹ができており、組み合わさった時に型がズレないようにするはたらきをします。これを作るために粘土に鉛筆で穴を空ける工程が必要だったのです。


11.湯口(樹脂を流し入れるための注ぎ口)をカッターで彫る

最後に湯口をカッターで作ります。今回はパプリカの底面に湯口を作ることにしました。

なぜ原型の天地を逆にして湯口を作っているのか2つの理由があります。1つ目は今回の原型の形の場合、下の図のように、樹脂を流した時の空気の逃げ道を考えると原型の上からより下から流した方が空気が抜けやすいからです。2つ目は樹脂が完全に硬化した後、余分な箇所である湯口部分をニッパーで切った時にできるカット跡が底面側になり目立たないからです。このように原型の造形によって湯口の向きや空気の抜け方を予め考えておく必要があります

上面から見たところ。湯口となる穴が空きました。

以上で、シリコン型の完成です。

 

試しにウレタン樹脂を流し入れてみます。

複製品ができました。

 

シリコーン型の制作は手順が多くハードルを感じる方も多いかと思います。確かに手順は多いのですが、複製までできた時の達成感と喜びはかなりの大きさです…!今回のブログを参考に、ぜひ制作をしてみてくださいね。なおCMTELではシリコン型作成や樹脂成形に関する相談にものっています。原型に使う素材選びや仕上げ方、割り型を作る際の分割の仕方など、どういう複製品を作りたいかによって制作の方法が異なります。興味のある方はお気軽にCMTELにお越しください。

31 8月 

こんにちは。2017年月5月10日(水)〜6月1日(木)の期間限定で、作品展示・技術紹介「UVインクジェットプリント表現の幅」を開催しました。(※以下UV IJプリントと表記)UV IJプリントを用いて印刷されたポスター7作品を展示。UV IJプリント表現の可能性を、目で見て手で触れて感じられる内容でした。なお今回の作品は株式会社ショウエイ様よりお貸りしました。

今回のブログではUV IJプリントの特徴と可能な表現をご紹介します!

ポスター展示と併せて、作品が完成するまでのプロセスが分かるテスト印刷紙も展示しました。


●UVインクジェットプリントとは

インクが通常のインクジェットプリンターとは異なり、紫外線で固まる成分を含んだUVインクを用いています。プリントと同時に紫外線を照射し、素材にインクを瞬時に定着させます。インクをはじいてしまうような、表面がツルツルした素材にもプリントをすることが可能です。

「インクの厚盛り」「白インクでの表現」「紙以外にも印刷」…などなど通常のインクジェットではできない表現に富んでいます。小ロット印刷にも向いており、卒業制作個人制作でも活用できる印刷技術です。


ここからは実際に展示した作品に沿って、UV IJプリントでどういった表現が可能なのかを紹介していきます。


特徴その①「クリアインクで質感に変化が出せる」
クリアインクとはその名の通り、透明なインクで印刷面の最も外側の表層にプリントされます。表面の質感をツルツルにする事はもちろん、光沢感を抑えた絹目写真のような控えめな光沢感にすることも可能。質感のバリエーションは全4種類。光沢感の少ないものから順に、マットセミグロスグロスドロップグロスとなっています。こちらの作品ではマット、セミグロス、ドロップグロスを用いています。(制作 河野愛氏×佐藤裕氏

下の写真は左側がドロップグロスをプリントした色面。画面に透明感とみずみずしい印象を与えます。向かって右側のマットな質感とのコントラストがきれいです。

こちらの作品でもクリアインク(ドロップグロス)が使われています。(制作 杉田翔平氏

使用した紙は「エドワーズ ギフトライン・ブラック」。ツヤのある斜めのストライプ柄が元から入っている紙です。UV IJプリントのクリアインクを上から重ねると…

クリアインクの色面とストライプ柄とがレイヤー状に重なり、複雑なグラフィックが生まれます。一見黒い色面が多くをしめる作品ですが、光のあたり具合が変わると黒い画面からツヤのあるパターンが現れ出ます。思わず手が伸び、ポスター上の色々な柄を触れて確かめたくなります。


特徴その②「ホワイトインク」

ホワイトインクは他のインクに比べて隠蔽(いんぺい)性が高いため、紙地を隠すことが可能。こちらの作品を例にご紹介します。(制作 宮前陽氏×渡辺美里氏

一見白い紙に銀の箔押しをしたかのようですが…そうではありません。元々の紙はこちらの「ミラルック シルバー 210g/m2」。

縁の白い色面は用紙の上にのせられたホワイトインクで表現されています。実際にポスターを触ってみるとわかるのですが、白い縁の方がシルバーの色面よりも1段盛り上がっています。ホワイトインクを使って地と図の関係を入れ替え、まるで銀箔を押したかのような擬似的な表現ができることに多くの方々が驚いていました。

こちらは特徴その①で紹介した作品のテストプリント用紙です。元々の紙地はメタリックなシルバーですが、向かって左側はホワイトインクをのせた上に青いカラーインクを重ねているため紙地の表情は透けて見えません。一方右側は紙地の上にホワイトインクをのせていないので、メタリックな質感が見えています。ホワイトを敷いておくかおかないかで、紙の質感を透かせて見せたりあえて見せなかったりする表現も画面に深みを与えます。


特徴その③「発色がよい」

実物はまるで蛍光ピンクのようなビビットな発色をしていたこちらの作品。一般的なオフセット印刷はCMYKのインク4色をかけ合わせることで表現するのに対して、UV IJプリントはCMYK、ライトシアン、ライトマゼンタの計6色を使います。インクが細分化され幅広い色をカバーできるため、混色が少なくて済み色の濁りを抑えることが可能。そのため高い彩度を表現することができるのです。(制作 杉田翔平氏

入稿データのカラーモードは一般的にはCMYKですが、UV IJプリントの場合はRGBの方が発色良く出力できます。またRGBデータをそのままプリントすることができるので、デジタルカメラで撮影した写真作品など色味を極力壊さずにプリントすることができるのも特徴です。作品中のグリーンの発色の良さも際立っていました。


特徴その④「インクの厚盛りができる」

UV IJプリントは、インクの上からさらに2重3重とインクを重ねることができます。つまりインクを立体的に盛り上げることが可能なのです。プリントする素材にもよりますが、1層あたりの厚さは約0.3mm。こちらの作品の1つ1つのドットはクリアインクを12層重ねて作られたものです(色の違いはカラーインクによるもの)。

この立体感は「プリント=平面的」という既成概念を覆す程。まるで紙の上に別の素材を貼っているかのようです。プリントだけで作られた作品だということに衝撃を受ける方も多くいました。(制作 石井勇一氏

こちらの作品ではホワイトインクを厚盛りにしています。(制作 宮前陽氏×渡辺美里氏

手書きで書いたアルファベットの筆圧の強弱をホワイトインクの厚さで表現しています。例えば下の画像の「P」、ぎゅっと力を入れる部分は厚く3〜5層、軽い筆圧でさらっと書いた部分は1層でプリント。1つの色面の中に、レイヤー数を多く重ねる部分とそうでない部分を作ることで、なめらかな起伏を作ることができます。

こちらの作品では中央の白い色面をホワイトインクの厚盛りでプリントしています。(制作 宮前陽氏×渡辺美里氏

この角度から見るとホワイトインクが上からのっているのがよく分かります。


特徴その⑤「紙以外の素材にも印刷可能」
表面がツルツルしたメタリックな紙やホログラム紙はもちろん、5cmまでの厚さなら紙以外の素材にもプリントが可能です。例えば、アクリル板・木の板材・金属板など。ただし表面フラットでなければなりません。最大プリント可能サイズ1.3×2.5m

左は金属の板に白インク、右は黄緑色のアクリル板に黒いカラーインクをプリントしたもの。


●今回の展示を通して寄せられた質問
Q1「厚盛りをしたい場合の入稿データの作り方は?」
オペレーターと打合せでインクの厚盛りイメージを共有した後、オペレーターがデータの作成をします。綿密な打合せが必要となるため、対面での打合せをする方が多いそうです。さらにテスト印刷(A4サイズ1枚あたり約5,000円〜10,000円)をして、それをベースにインクの盛り上げの指示を詳細に決めていきます。

Q2「クリアインクやホワイトインクを使う際の入稿データの作り方は?」
カラーデータ(RGB)とは別のファイルに分けるか、同じデータ内でレイヤーを分けておく必要があります。

Q3「印刷をする紙や素材の手配は?」
持ち込みもしくは、ショウエイ様に手配を依頼することも可能です。

Q4「印刷物はもう見られないの?」「価格が知りたい」
ポスター作品は返却してしまったためありませんが、CMTELではサンプルと印刷価格表を常時展示しています。気になる方はぜひご覧ください。

 

今回のUV IJプリント技術を通して、平面作品は2次元ではなく薄い3次元だということに気付きました。大判インクジェットプリンタが普及した2000年代から10年以上経ちますが、それから格段に表現の幅を広げるこの技術を学生が知り制作に繋がればと思います。インクジェットプリントでは表現できない質感・色・立体感が、個人制作レベルでも使えるUV IJプリント技術、ぜひチャレンジしてみてくださいね。

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作品展示・技術紹介「UVインクジェットプリント表現の幅」は以下の企業様・デザイナー様にご協力いただき開催しました。(順不同)

株式会社ショウエイ
 logo_cs6

平和紙業株式会社
heiwa
宮前陽氏

渡辺美里氏

杉田翔平氏

石井勇一氏

河野愛氏

佐藤裕氏

29 8月 

9月の休館日のお知らせ

Posted by CMTEL  |  2017/08/29 16:44

9月の休館日のお知らせをします。

土曜:2、9、16、30日
日曜:3、10、17、24日
祝日:23日(土)秋分の日

また、下記日程は都合により一時閉館(11:30〜12:30)いたします。
6日(水)、13日(水)、14日(木)、20日(水)、27日(水)

9月は4日(月)より通常通り開館いたします。
なお、9月18日(月)敬老の日は授業調整日(平常授業)のため、開館いたします。
新しい素材も加わっていますので、後期も是非CMTELをご活用ください!

25 7月 

8月休館日のお知らせ

Posted by CMTEL  |  2017/07/25 10:45

8月の休館日をお知らせします。

夏季休暇期間8月5日(土)〜9月3日(日)

9月は4日(月)より通常通り開館いたします。

後期にはワークショップ開催、新着素材追加予定ですのでぜひお立ち寄りください!
後期も是非CMTELをご活用ください。

18 7月 

こんにちは。2016月12月7日(水)に孔版印刷のワークショップを行いました。 講師としてレトロ印刷JAM様より山本氏・伯田氏、理想化学工業株式会社様より澤田氏をお招きし、デモンストレーションを交えながら製版〜印刷までのプロセスを体験できる内容でした。今回のブログでは当日の様子にあわせて、シルクスクリーンで失敗しないためのコツをご紹介!

 

●講義「孔版印刷について」
まず初めに予備知識を学びます。孔版印刷とはスクリーン状の版に細かい孔(あな)を開け、そこからインクを紙や布に押し出す印刷技法。シルクスクリーンや、ステンシルなどを総称して孔版印刷と呼びます。現在のシルクスクリーンは、江戸小紋や伊勢型紙などの日本の捺染(なっせん)型紙の技術を元に開発されたものです。Tシャツやトートバッグへのプリントにも使われている身近な印刷技術です。

従来、シルクスクリーンの版を作るには多くの手間時間機材暗室、そしてテクニックが不可欠でした。しかし今回はそれらを大幅に短縮する、こちらのデジタル製版機を使って版を作ります。マシンの中には紗(しゃ)となるフィルムがロール状になってセットされています。

このフィルムは樹脂層メッシュ層2層構造になっています。このフィルムをマシンに通し、サーマルヘッドで熱をかけると樹脂層だけに微細な孔が開く仕組みです。孔の開いた部分がインクののる色面になります。

機械とパソコンを繋いでIllustratorで作ったデータを送ります。するとデータ通りの図案がフィルムに開きます。インクをのせたい色面を、データ上では黒色で表現します。プリンタ感覚で出力が可能で、1枚の紗が100秒で完成しました。このように特別な技術を必要としないので紗に出来不出来がなく、高いクオリティーを一定に保った紗を作ることができます。

●下準備「枠に紗(しゃ)を張る」
紗とは、インクを通す(樹脂層に孔があいている)部分と通さない(孔があいていない)部分をもつシルクスクリーンの網目状の版のことです。今回紗に使用したのは70メッシュ。メッシュの数は網目の細かさを表し、数字が大きくなる程目が細かくなります。精細な図案の印刷ができ、印刷解像性が高くなります。

70メッシュの他には、120メッシュ・200メッシュ等があります。数字の大きなメッシュは細い線の表現ができる一方、インクの種類によっては目が詰まりやすく、こまめな洗浄が必要です。そのため図案のデザインどのインクで刷りたいかによって、適したメッシュ数を選ぶ必要があります。

今回はこの後の特殊加工に使うホットバインダー(粒子が大きく目詰まりを起こしやすい)で刷ることをふまえて、70メッシュを選択。70メッシュは0.35mm幅の線以上の太さなら印刷可能なので、予めその点も頭に入れてデータを作る必要があります。

1.使った道具
シルクスクリーンには紗を張るための枠が必要です。今回使ったはレゴのようにパーツを連結させて7通りのサイズの枠ができるフレームパーツです。(詳細はこちら) 今回はSサイズ(200×200mm)の紗を使うので、青色と黄色のパーツを使います。なお、紗は参加者が事前に製作したデータから出力したオリジナルデザインのものを準備しました。

2.枠を組み立てる
組み立てにはちょっとしたコツが。まずコの字型に組み立てます。それを2つ作ります。その後2つのコの字同士連結させます。ぐるりと一周するように組んでしまうと最後の1パーツが繋げにくくなってしまうからです。組んだ後は連結部分に隙間が無いようにギュッと枠をしめます。

3.裏側から紗を張る
枠を裏返し、紗のツルツルした面にして置きます。付属のゴムとローラーを使って紗を張っていきます。(詳しくはこちら

通常のシルクスクリーンでは紗をたるみなくピンと張るには慣れが必要です。しかし皆さん初めてでもうまく張ることができました。でき上がった版の紗は、従来のシルクスクリーンと遜色ないほどの高いテンションで張ることができました。

 

●実習1「紙・布用インクを刷る」
今回プリントをする素材は参加者に持ってきてもらいました紙袋やトートバッグなど色々なものが集まりました。インクは準備してある10色以上の中から1つを選択。

1.インクはたっぷり使う
紗の図案部分の幅をカバーできる量のインクをおいていきます。スキージで刷る時、図案途中で紗の上のインクが尽きてしまうとかすれの原因になってしまいます。刷り終わった後、版に余ったインク再利用することができます。乾燥して固まりができていなければ、密閉容器に入れてとっておきましょう。

2.スキージで紙布用インクを刷る
この時のコツは以下の3つ。

 ・“ジー”という音がたつ位の力加減で刷ること
思っていた以上に手に力を入れなければこの音はでませんでした。

 ・スキージは深くつかみ、指を広げてしっかりと持つこと
スキージ全体均等にかかるようにしないと、力のかかっていない部分のインクが厚くなってしまいます。
力のかかりムラを起こさないよう図案の大きさに応じてスキージのサイズを選ぶことも大切です。

 ・スキージの角度を45°にすること
スキージが傾きすぎると、インクが余分に孔を通り抜けてしまいにじみの原因に。

それではこの3点を意識しながら刷ってみましょう。刷っている最中に版が動いてしまわないよう近くの人に枠を押さえてもらいます。


刷っている最中に枠が動くと、この様に図案がブレてしまいます。枠はしっかりと固定しましょう。

色々な特殊紙に刷る実験をしている学生も。表面がつるつるとしたメタリックな紙へのプリントもうまくいきました。

紙袋等厚みのあるものは中に板や厚紙を中に入れてプリントします。印刷面がフラットになるよう高さを調整すると、マチ部分の凹凸でインクがたまることを防ぐことができます。へのプリントは以上で完成です!

3.布へのプリントは仕上げにアイロンをかける
布製品にしたプリントは洗濯すると落ちてしまうのでアイロンを当てましょう。インクは熱で定着します。

 

●実習2「金箔・銀箔を転写する」
箔とは金・銀のメタリックな質感をもつ転写フィルムです。このフィルムをホットバインダーを刷った箇所にのせアイロンをかけると定着し、箔の加工ができます。

1.ホットバインダーを刷る
ホットバインダーとは箔フィルムや起毛シートを印刷物に転写するための接着剤です。インクではありません。加熱することで溶け、接着力を発揮します。紙布用インクより粘り気が強く粒子が大きくザラザラしています。刷り方は布用インクと同じで、版の上にのせてスキージで刷って使用します。

ホットバインダーは色が半透明でプリントした場所が見えにくくなるため、裏技として紙布用インクを少量混ぜておく刷った場所が見えやすくなります。こうすることで、次の工程で箔を重ねる際の目印になります。また、ホットバインダーは2回刷りましょう。より厚くホットバインダーを付着させておくことで、箔をしっかりとつけることができます。

印刷後はすぐに濡れたウエスで版を裏側から拭きましょう。ホットバインダーは紙布用インク以上に早く乾燥しやすい性質を持っています。乾いてしまうと版の目が詰まり、版自体が使えなくなってしまうので要注意。ウエスの水分を与えることで目詰まりを防ぐことができます。

2.熱圧着する
アイロンを150℃に温めます。使用するアイロンのかけ面には蒸気孔の穴がないものを使用します。蒸気孔のあるものだと穴の跡がついてしまうことがあります。またアイロン台は表面が柔らかいものだとかけた圧力が分散してしまうため、硬い板(厚紙でも可)がおすすめ。

バインダーを刷った部分の上に箔を重ねます。さらにその上に料理用のクッキングシートを被せ、アイロンを3秒程軽くあてます。

クッキングシートの上からウエスで優しくなでます。ホットバインダーと箔の間に残っている空気を抜き、しっかりと密着させるためです。

箔がずれないように気をつけながら、さらに20秒加熱。しっかりと体重を乗せ圧力をかけます。

3.熱が完全に冷めたら箔フィルムを剥がす
ホットバインダーを使った転写で、最も重要なポイントがここです。フィルムを剥がしたくなる気持ちをぐっと堪えましょう…!冷める間に熱で溶けたホットバインダーと箔とが、しっかりと固着します。熱が冷めないままフィルムを剥がしてしまうと、固着が不十分で箔がまだらについて失敗します。十分冷えたらフィルムをゆっくりと剥がし完成。


 

●実習3「起毛加工をする」
ここで使用するのは起毛シートホットバインダー。起毛シートとは台紙の上に短い毛がついているシートです。加工した面はベロアのようにふわふわした肌触りになります。こちらでもホットバインダーを使い、箔と同じ要領で定着させていきます。

1.ホットバインダーを刷る
箔の加工時と同じく、ホットバインダーを2回刷り終わった後はすぐに濡れたウエスで版を拭きます。

2.熱圧着する
箔の時よりもアイロンの温度を上げ165℃にします。起毛シートは、白い台紙を上にしケバケバした面が下になるよう重ねます。クッキングシートの上からアイロンで軽く3秒加熱した後、クッキングシートを重ねたまま上から布でなでて空気を抜きます。その後再びアイロンで20秒しっかりと圧着します。

3.熱が完全に冷めたら台紙をはがす
何度も繰り返しますが、ここでもやはり焦りは禁物です!冷えてから台紙をはがすと…プリント面がふわふわケバケバになります。講師陣の経験とアドバイスのおかげで、起毛シートに初めて挑戦するにもかかわらず、皆さん順調に加工ができました。

ちなみに、冷めきらないうちに台紙をはがしてしまうとこんなことに…。温かい状態だと接着があまく、毛をプリント面に定着させることができません。

 

今回のワークショップでは、大変なイメージのあるシルクスクリーンを身近に感じることができました。また成功させるためには一つ一つの作業に細やかな配慮工夫が必要なことを学びました。 製版から印刷、特殊加工までと内容盛りだくさんなワークショップは2017年度も開催予定です。今回参加出来なかった学生の皆さん、次回をお楽しみに。

今回ご協力いただいたレトロ印刷 JAMさんでは、枠の販売はもちろん、孔版印刷サービスも行っています。興味のある方は是非、HPをご覧ください。

※このワークショップは、サポート企業・レトロ印刷 JAM理想化学工業株式会社様にご協力いただきました。

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