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大学院教育改革支援プログラム
異文化相互批評が可能にする高度人材育成

「Art & Design 国際講評会」について

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1.
「Art & Design 国際講評会」

本申請における中心的な教育プログラムが、「Art & Design 国際講評会」の定期的な開催である。


2.
背景と「Art & Design 国際講評会」の成り立ち


(ア)美術、芸術、デザイン教育の場である本学大学院は、伝統的に「講評会」という教育プログラムを慣習的に続けてきている。研究領域によって多少は異なるが、この講評会は、おおむね半年に一度の割合で開催され(博士前期課程では2年間で4回、博士後期課程では3年間で6回程度開催)、主査教員、その他の教員、領域内の学生から批評を受ける、という、美大生にとっては研究上のたいへん重要な節目となっている。また、講評会に向けて作品、研究などをまとめていくという意味では、場所は学内に限られてはいるものの「発表の場」であるという言い方もできる。本学大学院に所属する学生のすべてはこの講評会を経験する(「芸術学」専攻のみ論文指導を行う)。


(イ)かつてこの講評会は、少なくともデザイン領域内では、専攻は問わず、すべての領域の学生が一堂に会し行っていた(現在は、領域研究が専門化していること、学生数の増加などの要因で、このスタイルはとられず、ミニマムな専攻ごとに講評会は行われている)。この「超領域」とも言える講評会は、専門性には欠けるところがあったにせよ、反対に多くの領域から教員などの批評者を集めたこともあり、大いに意見の交わされる活発な創造の現場であった。この「横軸設計」の力強さを、現状のカリキュラムの中にいかに再生し、融和させるかという点について、デザイン領域教員有志によってFDとして問題提起され、解決が図られてきたという背景を持つ。


(ウ)そのひとつの具体的方策とも言えるのが、「国際的なステージ」というキーワードである。他教育機関との連携の上で応用・発展、海外協定校とともに同じプログラムに立つことで、国際的な講評会教育を実現する。この教育プログラムを「Art & Design 国際講評会」と呼ぶ。


(エ)2007年度は海外協定校を訪問、実現の可能性を緻密に探った。その話し合いの結果、2008年度には、10〜11月に北京2校、翌2〜3月にヘルシンキ1校、1月に、本学に協定校から優秀な学生を招いて国内での「Art & Design 国際講評会」を開催する予定が組み上がってきた。


3.
「Art & Design 国際講評会」の期待される教育的効果


(ア)「Art & Design 国際講評会」は、協定校を訪問するかたちを基本とする(本学からは15名程度が作品を携え訪問)。2日程度を費やし、本学と訪問校双方の学生約30名による作品発表・研究発表に対し、双方向の批評を加える。形式としてはプレゼンテーションに加え、「クリティカル・ノート」の活用、展示などを考案中である。現状では、すべて訪問校の施設を使って開催する予定である。


(イ)ここで期待されるのは、言語、習慣、宗教、経済、文化、歴史、芸術素養、総合的な価値観などから生じる異文化間の健全な衝突であり、それを乗り越え、理解し合い、人的交流を育成することである。「学生の作品と批評を中心に据える」ことで、はじめて可能となる高次元の交流であり、美術・デザインの分野でのより高度な人材育成へとスムーズにつながっていくものと、その効果を期待されている。


(ウ)一般的に講評・批評は、作品という結果に対して行われるものだが、効果はそれだけでは終わらない。異文化からの批評は、強いインピレーションを呼び起こすと想像できる。それをベースとして、次の作品・研究へと学生が向かっていく良質な循環を呼び起こせるものと強く期待できる。


(エ)「Art & Design 国際講評会」へ向けての準備として、学生は、「クリティカル・ノート」に作品を集積していく(「クリティカル・ノート」において後述)。これらは「Art & Design 国際講評会」以前に協定校間で公開され、参加学生のコミュニケーションを取り結ぶ役割を行う。


4.
授業計画との関連


(ア)多くの授業で、「Art & Design 国際講評会」への参加を想定した指導、取り組みが行われる。


(イ)デザイン領域では「研究I・II」「研究III」で対応。


(ウ)共通の横軸型授業(「アート&デザイン論」「エモーショナル・デザイン論」など)で対応。

「異文化相互批評が可能にする高度人材育成」について

program
1.
「異文化相互批評が可能にする高度人材育成」

「大学院教育改革支援プログラム」申請にあたって、本学からは、「異文化相互批評が可能にする高度人材育成」を目指すべきテーマとした。具体的には「Art & Design 国際講評会」を開催すること、「クリティカル・ノート」を活用することの両軸を持ちながら、高度な人材育成をはかるという教育プログラムである。


2.
目指すべき高度人材育成

(ア)Art & Designという本学全体の研究領域において、目指すべき人物像ははっきりとしている。本学は建学以来「自由と意力」をもっとも重要な理念として尊んできた。高度人材育成を一言であらわすなら、これ以上のヴィジョンはあり得ない。

(イ)その上で、激動を続ける現代に対応できる人材としては、次のような人物像を描くことができる。いずれも本大学院の専攻に沿ったものであることは言うまでもない。

1. 優れたアーティスト
2. 優れたクリエーター
3. 優れた研究者

(ウ)加えて、今日、パラダイムシフトを頻繁に繰り返す社会状況の中では、状況を生み出し、育て、経営や社会還元へと結びつける複合的な能力も必要とされている。その際には、より総合的な能力が必要とされるだろう。これらは単体ではなく、融和し、統合されることで、より広がりを持つ場合が多い。

1. 優れた企画立案者、企画運営者、プロジェクトリーダー
2. 優れたディレクター、プロデューサー
3. 状況全体を生み出すことのできる優れたオーガナイザー


3.
横軸教育に期待されるもの

(ア)いわゆる「横軸教育」「超領域教育」とは、「専門教育」を縦軸と見立てた場合に対比的に構築されるものである。学部では、「教養教育」「共通教育」と呼ばれることが多いが、ゼミやワークショップなどにも、横軸教育の要素は入り込む場合が少なくない。本大学院では、教員が交代・連鎖しながら広がりのある領域について連続講義を行い、全領域の学生が履修しやすいように配慮している「Art & Design」などの講義科目に、この横軸を意識している。横軸教育に期待されているのは、縦の糸に横の糸を織り込むことで、より専門性を強固にし、そこに知識、価値、視点の広がりを与えようとする総合的な教育効果である。縦の専門教育が十分熟成し、機能しているからこそ、横軸教育が意義を持つのである。

(イ)さらに横軸教育とは、専門知識や技能修得に比較すると、どちらかというと、人間の成長、総合的な能力の開花を目的としている。人間力の向上、などの言葉に代用される場面が多い。

(ウ)しかしながら一方では、横軸教育における教育効果は、大学院以上の教育カリキュラムの中では、なかなかその成果をはかりにくいものである。


4.
産業構造における横軸

(ア)すべての産業は、基本的に縦軸として成立する。

(イ)その中で発展的に創出された「企業内プロジェクト」というものは、縦の専門に加え、つねに横の視点を持つ構造をとる。例えば、機能とデザインという両者のバランスを最高レベルで結び合わせる場合、お互いが横軸として新しい価値、判断基準を提示し続ける。異なる判断を巡って、理解、融和が頻繁に繰り返される。こうした場面で今後求められるのが、ディレクション能力を持つ人材である。

(ウ)また、プロジェクトに限らず、結果に対する「評価」は、産業界がもっとも重視している点であろう。評価を繰り返し磨かれていくのは、学生も産業界も変わるところがない。


5.
本学における特色である「講評会」

(ア)詳しくは「Art & Design 国際講評会」の項に譲るが、本学では慣例的に「講評会」という、学生の作品、研究に対する批評の場を、年に2回程度設けている。同一の研究領域内でも、さらに細かく分かれる部分もあり、この講評会が、領域内横軸教育の最たるものということができる。

(イ)これらを領域からさらに外に広げ、異領域間で「講評会」を成立させられないか、それこそが本学らしい横軸教育といえるのではないか、という発想から、本教育プログラムの外郭が組み上げられることとなった。


6.
批評教育とは何か

(ア)講評会は、学生にとって大変大きな評価のステージである、と同時に、自分の作品、研究に対する感想、印象、声などを集めることのできるまたとない機会である。教員は、さらに突っ込んで、批評を行うことが多い。

(イ)批評は、肯定と、いくばくかの否定的要素から成立する。学生はそれに対し、説明を加えることで教員との間に理解が進む場合もあり得るし、それでも教員の意見としては否定的な要素も伝えなければならない場面もある。いずれの場合も、学生にとっては主観から客観へと視点を広げる大きな助けになる。

(ウ)批評のもうひとつの役割は、「ひらめき」「気づき」「インスピレーション」を与えることである。学生の能力をいっそう高次元へと向かわせ、また問題を振り払い、才能を一気に開花させる大きな一助となる。この批評をどのように受け入れるか、活用するかというのは学生の裁量に任されることになるが、より高い領域へいかに歩みを進めるのか、という目標の前では、批評が大きな分岐点であることは間違いない。

(エ)前述したように、産業界では、製品化を前にして、社内、プロジェクト内で、頻繁に品評、批評が繰り返される。このことを念頭に置けば、制作者、作家、研究者というものは、つねにこの批評というものと向き合わなくてはならない。視点が違い、価値観が違えば、期待する結果も自ずと異なるからだ。そういう意味で、もの作りや研究を続ける以上、批評は永遠に必要不可欠な「機能」であると言ってもいい。

(オ)こうした批評の「機能」を、これまでよりさらに意識的に教育プログラムに取り込むことが、高度人材育成のためには、なくてはならないものである。


7.
「異文化相互批評」と人材育成

(ア)本教育プログラムでは、「Art & Design 国際講評会」を実施することを大きな目標に置いている。

(イ)海外協定校を訪問し、講評会を行うケースもあれば、反対に、国内で開催することで、多くの協定校から一堂に学生を集める場合も想定している。この国際的な講評会に期待したいのは、異文化間で必然的に繰り広げられるであろう、疑問、批評、ディスカッションである。

(ウ)前後するが、もの作り、表現、研究というものは、往々にして、わたしたちの日常の中に発想を得て、そこから発展して、かたちになっていく場合が多い。しかしそれは、同じ国、大きくとらえれば近似している価値観、同一言語などの文化圏の中で成立する、という前提に立っている。

(エ)現代はグローバルであることそのものはもはや当然の時代であろう。とすれば、批評も異文化間で交わすことは、必要なことであると明言できる。また、大きく異なる文化を背景に持つ場合、双方がどうしても理解しがたい点もあるだろうし、反対に、簡単に理解が進む場合もあるだろう。こうしたことはマイナスなのではなく、すべて経験値、新しい価値、発想に向かっていく良質なきっかけとなるはずである。こうした異文化相互批評を通じて育まれるもの、それこそが新しい時代を築いていく高度な人材であると言える。

CO-COREは次のプログラムを進めます

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このページは、2007年秋に、在学生の理解のために「CO-COREパンフレット」に掲載された文章を再掲載しています。
海外提携校への説明のためにも使われました。


CO-COREについて、「入門編」の説明になっています。

Art & Design 国際講評会の開催
(在学生向けの説明)

多摩美術大学が採択されました「大学院教育改革支援プログラム」の核となる教育プログラムです。キーワードは「異文化交流で磨かれる」こと、そしてそこから「閃きを得ること」です。

多くの学生の積極的な参加を期待しています。

アート&デザイン国際講評会、と言っても難しいことはありません。いつものように作品や研究に前向きで、そしてきちんとプレゼンテーションをすればいいのです。

ただ少し違いもあります。以下、ふたつのステップが必要になります。

ひとつは、参加者はクリティカル・ノートに必ず作品と短い説明文、キーワードなどを登録すること(詳しくはクリティカル・ノートのページを見てください)。

もうひとつ大事なことがあります。みなさんにはぜひ「横につながる」ことを意識してほしいのです。いわゆる講評会は、研究領域ごとにまとまって行われるものですが、この「国際講評会」では、様々なテーマ、考え、背景を持つ学生と一緒になって、批評セッションを組み上げる、という大きな意識を持ってください。その上で、魅力的なプレゼンテーションを行ってください。そうすればたくさんの批評、声、意見を集めることができるでしょう。

結局は、アート&デザイン国際講評会は、作品や研究があって、そして会話が生まれ、理解が生まれ、国と国に橋を渡す人の交流が生まれる、ということになるのです。これこそ本当の意味での国際的な文化交流の姿だと思いませんか?

「アート&デザイン国際講評会」は、異文化が衝突し、理解し合い、より深い絆の創成へと向かう、またとない機会です。

クリティカルノートの開発と制作
(在学生向けの説明)


聞き慣れない言葉だと思います。わたしたち実行委員の教員は、どのように進めていけば、アート&デザイン国際講評会をきちんと実現できるのかと、ずいぶん考えてきました。その答えのひとつがこのクリティカル・ノートです。

これはインターネット上に積み上げていく、デジタル・ポートフォリオのようなものです。アート&デザイン国際講評会に参加する学生は、クリティカル・ノート内に自分のノートを持ち、そこにラフ・スケッチをため込むように、作品をアップロードしていきます。これは多摩美生だけでなく、一緒にアート&デザイン国際講評会に臨む海外の学生にもお願いいたします。

そして、双方から、いつでも自由にお互いのノートを閲覧することができます。そこには作品もあればスケッチも、デッサンも、メモのようなものも入っています。キーワードや短い解説もあって理解の助けになるでしょう。ですから、たとえ作品は完成していなくても、制作の行程を学生同士分かち合い、理解することができるのです。このクリティカル・ノートで、お互いがはじめて顔を合わせるまでに、十分コミュニケーションをとっておきましょう。

また、本番である国際講評会のプレゼンテーションでも、導入などでうまく使うこともできるかもしれません。
あなた自身のノートやポートフォリオのように、親しみながら育てていってほしいのです。

CO-CORE研究会
(在学生向けの説明)


アート&デザイン国際講評会、そしてクリティカル・ノートは、とても斬新な取り組みです。

ありそうでいて、実はまだ世界でも例がないのです。また、この教育プログラムは、「きちんと日頃の教育課程に息づき、しっかり根ざしたものである」ことがとても大事です。

その研鑽と、国内の教育機関とビジョンを共有するために大規模な研究会を立ち上げます。ここで、テーマとなるものは、「講評会・批評会が切り開く教育効果についての研究」(仮称)というものです。批評行為は、アート&デザイン領域のアーティストやデザイナー、オーガナイザーに、どのような影響を及ぼすのでしょうか。学生一個人の成長のなかでどのような影響を持つのでしょうか。

この研究会に、国内、海外の教育者、研究者、有識者、あるいは学生を招き、活発な議論を展開したいと考えています。様々な分野での「講評・批評」教育の事例報告を交わし、いろいろな意見交換をしたいと考えています。

わたしたち実行委員は、<「講評・批評」とは、学生に横軸の視点を与え、幅を与え、瞬間的な成長を可能にする大変重要な教育課程である>と考えています。

この研究会は、こうした比類ないテーマを考える最初のステージとなります。

全国、あるいは海外から、多くの研究者・教育者・有識者のみなさまのご参加、そして学生のみなさんのご参加を期待しております。

(第1回CO-CORE研究会は、2008年2月29日・3月1日の両日にわたり開催されました。第2回CO-CORE研究会については、2008年4月1日現在、未定となっています)

高度人材育成に向けて

about
多摩美術大学学長
清田義英



創立以来70 有余年の歴史をもつ本学は、「自由と意力」を理念として、美術とデザインの創作研究を実践し、美術教育の在り方を絶えず探求してきました。

1964 年、専門性を深め同時にジャンルを横断できる柔軟な人材の育成を目指す博士前期課程が開設され、2001 年には、専門性を高次のレベルに引き上げ、創作力と理論を兼ね備えた総合的な芸術家、研究者の育成を目指す博士後期課程が開設されました。

本学では美術国際交流に関する協定を、中国、韓国、フィンランド、タイ、米国の7 大学と結んでいます。
協定校間では、共同展の開催や交換留学生の派遣・受け入れの交流を図っています。

今回、講評会の国際化による高度デザイン人材の輩出を目標に掲げた本学教育カリキュラム「異文化相互批評が可能にする高度人材育成」が、文部科学省の大学院教育の実質化を推進することを目的とした「大学院教育改革支援プログラム」に採択されましたことは、大変光栄に思っています。この好機を大いに活かし、美術とデザインの創作研究のますますの充実発展を図っていく所存です。

実施にあたっては、関係教育機関の皆様のご理解・ご協力が不可欠であります。また国内外の多くの研究者、学生の皆さんにもご参加いただき、すばらしい成果へと結びつけたいと願っております。よろしくご協力をいただけますようお願い申し上げます。

大学院教育で私たちが目指す新しい取り組み

about
—アート&デザイン国際講評会の実現に向けて—
多摩美術大学大学院 美術研究科デザイン専攻 教授博士(経営学)
International Art&Design Critiques Committee運営責任者
CO-COREプログラム代表

岩倉信弥


このたび多摩美術大学大学院( 博士前期・後期課程)は、文部科学省の競争的補助金事業である「大学院教育改革支援プログラム」の採択プログラムに選定されました。

私たちが日頃取り組んでいる教育プログラムが高く評価されたと言うことであります。大変光栄に、うれしく思っています。

私たちの教育プログラムは、「異文化相互批評が可能にする高度人材育成」と名称しております。加えて副題で具体的に「閃きを誘発する国際講評会の実現」としました。

講評会というのは、私たちにとってなくてはならない大変重要な教育的節目です。学生は講評会に向け作品や研究に磨きをかけ、指導教員や関連学生の前でプレゼンテーションを行います。それまでは自分の中で組み上げ、熟成してきたものをいきなり人目にさらすわけですから、彼らの緊張感は手に取るようにわかりますし、また、その「本番」を経験することで彼らはひとつ大きくなれるのです。

講評会は、基本的に健全な批評の場です。

共感もあれば疑問もあります。予期せぬ批判もあるでしょう。それをはねのける発想や工夫に結びつくでしょうし、また同期学生の言葉から、稲妻のようなインスピレーションが舞い降りてくることもしばしばあります。だからこそアート& デザイン領域における講評会は、大学院生の人間成長に欠かすことができない重要な場なのです。

前後しますが、少し概略的なお話しに戻らせていただきます。私たちの大学院教育は、大きくアートとデザインの両領域にまたがっており、その両研究分野が、専門性を構築するとともに、双方が刺激をし合い、より刺激に満ちたシナジー効果を生み出すというきわめて有効かつ、高度な構造を持っています。言うまでもなく、専門教育というものは縦軸の流れを持ち、その中で厳しい教育課程をひとりひとり学生が登山をするように一歩一歩あゆみを進めるものです。

しかしながら同時に、教育というのはそれだけでは十分ではありません。人とのふれあいや、私たちの教育現場で言うならば、展覧会や研究会への参加、自主的な発表の場を持つことなど、人間的な幅を身につけ、豊かに深めてほしいという、学生個人個人の成長に期待する面も持っています。また、予期せぬ作品、予期せぬ人との出会いがもたらす瞬間的な創造というものも、人間成長には大変重要な要素です。
私たちは、これを「横軸」と呼び、アート& デザイン教育には欠かすことのできないものと尊重してきました。

講評会は、私たちにとってもっとも重要で魅力的な「横軸」であり、「縦軸」との交点であります。この「横軸」を重視した上で生まれる交点を、もっともっと機能的に活用したいと考えている最中の、補助金採択でありました。私たちの地道な日頃の取り組みが国によって評価されたわけですから、これほど喜ばしいことはありません。

私たちはこのプログラムの中で、大きく二つのことをしたいと思っています。ひとつは、世界を舞台にした「アート& デザイン国際講評会」の立ち上げと実施。

詳細は本編に譲りますが、私たちと同じく講評会を中心に横軸教育に取り組んでおられる大学院は全世界にたくさんあります。私たちは、その中のいくつもの教育機関をおたずねし、学生主導型・学生同士の活発な「国際講評会」を実現したいと考えているのです。

もうひとつは、世界中の学生がここに参加してほしいという願いを込めて、「クリティカル・ノート」というアーティスト・インデックスを、私たちだけでなく、世界中の学生とともにインターネット上に作り上げていきたいと思っています。国際講評会本番までに、双方の学生たちの作品を事前に知り、知識を深めておくことができます。また、このデジタル・ノートは本番のプレゼンテーションでも大変有効に活用されることになるでしょう。

もちろん、国際講評会とクリティカル・ノートの教育効果というものを私たち教員は十分注意深く設計していかねばなりません。そのために、早期に世界中の大学院教員、研究者をメンバーとした研究会を実現し、十分検討していきたいとも思っています。

私事で恐縮ですが、本学を卒業後ホンダという企業にあって、一デザイナーから経営陣の一人として商品担当役員を務める中で、さまざまなレベルの「評価会」が、私を育ててくれたと考えています。高度な決断の場面、異質な意見との戦い、国内にとどまらず海外の消費者との志向の違い、こうした自分以外のレベルや考え方の異なった人たちとの触れ合いや触発が、私の能力向上に大変役立ちました。

このような経験を通じ、この度の教育プログラムには強い思い入れがありますとともに、ぜひ今の若い学生といっしょになって実現していきたいと決意を新たにしているところです。

最後になりましたが、私たちはこの取り組みに「CO-CORE」という名称を与え、親しんできました( ココアと読みます)。飲み物のココアという温かいイメージもありますし、「共に・中心である/ 中心を作る」という意味を含めたCO-CORE でもあります。教育プログラムの総称としてもこのCO-CORE を引き続き使っていくことを先日決定し、より一層親しみを感じているところです。

私たちはこのパンフレットをメディアとし、これから世界中の大学院、教育機関に呼びかけていこうと思います。
みなさんのご関心をいただけましたら、またご参加をいただけましたら、これほどうれしいことはありません。よろしくお願いします。