【Webzineタマガ】カセットテープ復権/タマガ考

 最近、国内外の音楽シーンの一部で「カセットテープ」が話題だ。2014年夏、輸入カセットテープを専門に扱う日本のオンラインショップ「TAPE SCHOOL」がオープンした。フェイスブックやツイッターを利用して入荷情報を流し、愛好家への販売につなぐ。先行した欧米では、カセットテープ文化を盛り上げて行こうという企画「カセットストアデー」が2013年に誕生。英国のミュージシャンTwinkの『Think Pink』(Burger Records)など、たくさんのアルバムのカセット版がリリースされている。それにしても、なぜ今カセットテープなのか。

illustrated by Atsuo Ogawa

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 近年主流になっているデジタルメディアに比べると、媒体の耐久性、音の安定性、巻き戻しの手間等の点で劣るカセットテープは、「過去の遺産」になっていた。ウェブマガジンQeticによると、「カセットはその本体の厚みや手作り感、音色を楽しめるだけではなく、レーベルにとっても少ない本数で生産可能なためリリースの自由度が高く、音楽性もレコードやCDではリリースし得ないものが生まれる」(2014年7月18日付記事「カセットテープ専門ストア・Tape Schoolがオープン」より)という「TAPE SCHOOL」のオーナーの言葉が、カセットテープに目を向けた理由として紹介されている。近年はYOUTUBEなどの動画サイトで動画を無料で流し、プロモーションに使うケースも出てきているが、やはり無料メディアと有料メディアは違う。わざわざお金を払ってメディアを買うファンの存在は大きい。

 「LOVE IS LOVE」など哲学的かつ人間味あふれる楽曲で知られるニューヨークのHIPHOPアーティスト、CORMEGAの動きは、この現象を象徴する。2014年に発表した最新アルバム『MEGAPHILOSOPHY』をレコード、CD、デジタルに次いでテープでもリリース。加えて同年、長らく廃盤となっていた名盤『THE REALNESS』(2001年)をカセットテープで再リリースしたのだ。

 一方、再生に必要なカセットテープレコーダーは市場から姿を消しつつある。しかし、ハードオフのような中古家電を扱う店に行けば、状態のいいラジカセやヘッドホンステレオにしばしば出会う。ヤマダ電機やコジマなどの家電量販店の一部でも、オーディオコーナーの隅にその存在を確認することができる。アマゾンのようなネット通販店でカセットテープそのものを手に入れることも可能だ。

 では、リスナーのニーズはどんなところから生まれるのだろうか。カセットテープ全盛時代に青春を送った人の懐古や価値の再発見、デジタル主流の現代ゆえに自覚される「もの」と向き合う感覚、巻き戻しなどにわざわざ手をかけることへの愛おしさ。音楽の「音」以外の部分も音楽の重要な要素として、リスナーたちは愛でているのではないか。懐かしさばかりではなく発見がある。まるで人と向き合っているかのようでもある。

文=疋田健一郎


「タマガ」とは=多摩美術大学芸術学科フィールドワーク設計ゼミが発行しているWebzine(ウェブマガジン)です。芸術関連のニュース、展覧会評、書評、美術館探訪記、美術家のインタビューなどアートにかかわる様々な記事を掲載します。猫のシンボルマークは、本学グラフィックデザイン学科の椿美沙さんが制作したものです。