「百花繚乱」という言葉はこの作品のためにあるのではないかと思わせる作品が、山種美術館の『花と鳥の万華鏡―春草・御舟の花、栖鳳・松篁の鳥―』展に出品されている。その名も『百花』。あじさい、ゆり、はす、しゃくやくなどの花がそれぞれ存在感を主張しながら、絵巻の細長い画面を埋めている。作品名の通り、100種の花が描かれているという。
作者の田能村直入(1814〜1907年)は、詩情豊かな世界を開いた江戸後期の文人画家、田能村竹田の養嗣子だ。江戸末から明治を生きた直入も竹田の流れを継いだ文人画の数々を残している。だが、立ち上がったばかりの明治政府の命で描いたというこの作品は写実を向いた細密な筆致と鮮やかな彩色が目にまぶしく、文人画家とは別種のエネルギーが湧き出てきた様子がうかがえる。
明治の初めに描かれたこの絵巻は博物画の系譜の中でとらえることができそうだが、とにかく一つ一つの花が美しい。それが100種。ただ図鑑のように花を並べているわけではなく、一つの花畑に咲き乱れているかのように四季折々の花が描かれている。現実にはありえない光景。つまり絵だからこそ存在しうる世界なのである。絵とはかくも楽しいものかとの思いを新たにした。
取材・撮影・文=小川敦生
■「花と鳥の万華鏡―春草・御舟の花、栖鳳・松篁の鳥―」展
2015年2月11日〜4月12日、山種美術館(東京都渋谷区)
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