ImageForumFestival2015レポート番外〜ヨースト・レクフェルト多摩美講演〜

『#11, Marey  Moiré』Joost REKVELD / 1999 / 35mm / 21min.

『#11, Marey <-> Moiré』Joost REKVELD / 1999 / 35mm / 21min.

 今年のイメージフォーラムフェスティバルで審査員を務めたオランダの映像作家・美術家ヨースト・レクフェルト氏が、5月8日(金)に本学情報デザイン学科メディア芸術コース主催で特別講義を行ない、25-205教室は100人以上の学生で溢れた。レクフェルト作品は同フェスティバルでも、特別プログラムとして彼の作品集やインスピレーションを与えた作品が上映され、興味深い時間となっていた。

 もともと音楽から出発したレクフェルトは「ビジュアル・ミュージック」(視覚の音楽、音楽の視覚化)への関心から抽象映画の制作を始めた。音楽のトーンを色で表現する試みは昔からあり、西洋の歴史の中ではアイザック・ニュートンの「色の環」に行き着く。これは虹色の七色にドレミファソラシの音と対応させた色の表である。音を色や光で表現しようとした美術家で、もっとも代表的なのは直接的な色と音の翻訳を試みたカンディンスキーだろう。その他にもこうした試みはカラーオルガンを発明した英国の画家アレクサンダー・ウォレス・リミントン(1893)や米国のピアニスト・発明家メアリー・ハロック=グリーンウォルト(1918)、トマス・ウィルフレッド(1919,クラヴィラックス)らが行っており、こうしたアーティストからレクフェルトは影響を受けたという。

 それからレクフェルトは視覚により興味を持ち始め、「人間の目はカメラに似ている」ということに気がつく。つまり、視覚はテレビのように取り込んでいるものではなく、盲目の人が杖で物事をたどるように捉えられているのだ。ビジュアル・ミュージックから視覚へと移行した興味は、やがて視覚から人間とテクノロジーの関係へと移行していく。レクフェルトは1994年の作品『#3』で電子音楽のコンポジションを初めて映画の中に取り入れた作品を制作した。長時間露光によって,ライトの軌跡を線状に描き出したこの作品では、そのための装置をわざわざ自作したという。他にもコンピューターのプログラミングを用いた作品や、静電気の磁場を利用した装置など、ポータブルな機械でレクフェルトは我々が気づかない知覚を探っている。

 90分という限られた時間だったが、レクフェルトの作品制作に対する考え方がどのように移行していったのかがよくわかる、大変濃密な講義であった。

レクフェルト特別講義のポスター

レクフェルト特別講義のポスター

ヨースト・レクフェルト(Joost Rekveld)
1970年オランダ生まれ。2008年よりハーグ王立芸術・音楽院の芸術科学部長。1991年から抽象映画と光のインスタレーションの制作をスタート。作品のほとんどは、光学的要素の精密な動きを調整し構成するためにコンピュータを使用している。彼の関心は、サイバネティクス、人工生命、感覚の拡張の可能性、ロボット工学などにある。映画制作と並行して、照明とプロジェクションのデザイナーとして多くの劇場演出に関わり、映画上映プログラムのキュレーションやレクチャーも行っている。

文=韓松鈴