平出隆《private print postcard 011-z》2016年 個人蔵
©Takashi Hiraide
Photo: Kenji Takahashi
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千葉県佐倉市の DIC川村記念美術館で、今秋、詩人の仕事を核にした展覧会が開かれる。タイトルは「言語と美術─平出隆と美術家たち」。多くの美術家や美術作品とかかわってきた詩人、平出隆本学科教授の長年の探究の集大成になるという。準備が佳境を迎えつつある平出教授の研究室を訪ねた。
「私はこれまで、詩を書く者として美術を眺めてきました」
平出隆教授はこれまで、詩人として取り組んだ仕事の中で、たくさんの美術家や美術作品と向き合う機会を得てきた。実際に会って一緒に仕事をした美術家もいれば、残された作品を通じて「見えない対話」を重ねた例もある。それぞれの美術家や作品とじっくり向き合う中で、次第に人間の存在の本質にかかわる2つの要素の関係について考えるようになったという。「言語」と「形象」である。詩と美術の成立要件であるそれらは、いわば音と光という別々の根源を持ちながら、「時にぶつかったり混ざり合ったりする」という。
本格的に準備を始めたのは、今年3月。展覧会は、「言語」と「形象」それぞれの力について思考し続けた歩みの集大成になるという。はたしてどんな展示が実現するのだろうか。ここでは平出教授の言葉から、その一部を見所としてピックアップした。
「インクの夢」
カンヴァスにその日の日付だけを大きく描く絵画作品で知られる河原温、想像上の国々の切手をおびただしく描いたドナルド・エヴァンズ、秘密めいた小宇宙を古びた箱の中に作ったジョゼフ・コーネル、詩人・美術評論家でデ
「空中の本」
建築家の青木淳氏が展覧会の会場構成を手がける。平出教授とは、2015年に開かれた私小説家川崎長太郎の没後30年記念展において、その小屋を再現するプロジェクトなどで協働。しかも、「階段をめぐって議論を重ねあう仲」なのだそうだ。建築家と詩人の思わぬ接点には、感慨を覚えざるをえなかった。
通常、同美術館の企画展示は2階の専用の展示室で開かれるが、この展覧会では1階にある特別展示室も使うほか、そのほかの常設展エリアでも展覧会の関連作品にマークを付けてテーマへといざなうなど、美術館を全館丸ごと使った大胆な試みになるという。
特に注目すべきは「空中の本」。青木淳特別設計のショーケースを使った展示だ。展示室の入口の壁と出口の壁を、宙に浮いた全長14mのアクリルケースでつなぎ、中に、平出教授のつくる実験的な書籍が収められるというのだ。宙を縦断する本は美術の多様な領域をつらぬき、つなぎ合わせる。本のほかにも平出教授のメールアートや奈良原一高の写真と共在する新作の詩の校正紙など、多様なメディアが宙を飛び交う。鑑賞者には、順路が記されたリーフレットを片手に会場を回ってもらう。普通の美術展とは違った趣きの展示空間になりそうだ。
コーネルの箱の模型が飛び出すポップアップブックも
印刷所と出版社の手元に1冊ずつしか残らないという活版印刷時代の「訂正原本」(印刷所と出版社とが校正内容を記録するための本)や、ジョゼフ・コーネルの箱の作品の模型をたくさん収めたポップアップブックなども展示されるという。美術館で開かれる詩人の展覧会は、本好きも必見の充実した内容になりそうだ。
取材・文=豊島瑠南
展覧会情報
企画展「言語と美術─平出隆と美術家たち」
2018年10月6日〜2019年1月14日、DIC川村記念美術館(千葉県佐倉市)