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東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで、バスキア展が開催されている。「メイド・イン・ジャパン」との副題を冠した同展は、その名の通り、日本との関連性に着目した内容だ。国内では初の本格的なバスキアの大規模展ということもあり、注目度は高い。
今でこそ現代美術の巨匠と評価される米国のアーティスト、ジャン=ミシェル・バスキア(1960~88年)。これまで日本で作品を見られる機会はほとんどなかった。そんな中で実現したのが、日本との関係性に着目した「バスキア展 メイド・イン・ジャパン」である。
展示室では、おおよそ年代順に作品を追っていく。バスキアの型破りともいうべき表現を一から楽しむことが出来る内容だ。会場に入ってすぐに目の当たりにするのは、欧米の絵画には珍しく文字を書き込んだり印刷物を貼り付けたりしたスタイルや、大胆に簡略化した形態など。バスキアの作品の根底にある独特な発想に圧倒される。膨大なドローイングとノートからは、バスキアが芸術に賭けたエネルギーを感じ取ることができる。
会場をしばらく歩いて遭遇するのが、バブル経済の真っ只中であった1982年に日本へと訪れたというバスキアの作品群だ。これらは今回の展示の主役である。展示の副題にもなっている「メイド・イン・ジャパン」は、《Onion Gum》という作品に描かれたテキストから取ったものである。
バスキアの作品の大きな魅力は、アーティストの感情をダイレクトに受け取れることであり、中でも人種差別や抑圧に対抗・風刺するような表現は強いエネルギーを放っている。
例えば《Self Portrait》という作品では、あえて画面の半分に自画像を黒いシルエットで描き、もう半分の画面では複雑な色彩を描きながらもそれを王冠で隠すことで、人種差別の裏に存在する感情を思わせる。同じように日本を題材とした作品からは、バスキアが日本に抱いたであろう感情がうかがい知れる。ひらがなや空手といった日本の文化を取り入れた作品もあり、これまであまり知られてなかった意外なつながりに驚かされた。
ZOZO前社長の前澤友作氏が購入したことで話題となった、特徴的な仮面のモチーフと鮮やかな色使い、そして縫い目のような線が目を引く《Untitled》も興味深い。これも日本との関係性という意味では重要な一枚である。仮面はバスキアがしばしば題材にしてきたもので、バスキアを象徴するモチーフとも言える。
作品は初期のものから晩年のものまで、作風の変化や環境の移り変わりを踏まえて展示されている。バスキアの変化を発見できる手法を取りながら、バスキアという作家を非常に丁寧に読み解いていく展示なので、これまでバスキアに触れたことのない人にもおすすめできる。次の機会はいつになるか分からないだけに、是非鑑賞してほしい。
会場出口のショップで気になったのが、現代美術家の日比野克彦と美術史家の宮下規久朗がそれぞれ問いに答える形で綴った、『バスキア・ハンドブック』(ブルーシープ)。生前のバスキアを知る日比野と戦後米国の現代美術事情に精通する宮下の語るバスキア像は、巨匠の存在感をより近く感じさせることだろう。
取材・文=中川拓哉
【展覧会情報】
「バスキア展 メイド・イン・ジャパン」(公式サイトはこちら)
森アーツセンターギャラリー(東京・六本木)、2019年9月21日~11月17日