今井楓(編集プロダクション「シュークリーム」編集者)

今井楓(いまい・かえで)

1992年千葉県生まれ。
2015年度多摩美術大学美術学部芸術学科卒業。
16年1月に株式会社シュークリーム入社後、編集者として電子レーベル「moment」「女の子のヒミツ」を中心に、主にボーンデジタルコミックの編集を行う。 

「何がどのような形で役に立つかわからない」


本学芸術学科を数年前に卒業した今井楓さんが勤めているのは、編集プロダクションという職場だ。
文字通り出版物の編集作業を請け負う。
出版社と連携することも多く、近年は電子出版も増えている。
編集者はどんなときに喜びを感じるのだろうか。

 もともと漫画を読むことが好きで出版業界に興味があった今井楓さんが編集プロダクション「シュークリーム」に勤めることになったのは、本学科在学中のゼミで行った活動 がかかわっているという。『FEEL YOUNG』などの女性向け漫画雑誌 や、電子レーベルを複数手掛けているプロダクションだ。
 骨董市巡りを趣味にしていた今井さんはある骨董市で知り合った骨董商兼アーティストのマンタム氏を 大学に招き、当時所属していた映像文化設計ゼミ主催の上映会「金曜cinémathèque」の枠組みの中でトークショーを開催した。そのトークショーが本学情報デザイン学科の久保田晃弘教授の目に留まり、同年秋の本学芸術祭でメディアセンターが企画し、マンタム氏がキュレーションを行なった『異界線』展の開催につながった。今井さんは事務作業や告知作業、当日の設営補助などを担当した。また、マンタム氏の別の展示のレセプションでシュークリームの社長に出会い、それがきっかけでアルバイトとして採用されたことから現在にいたる。「何がどのような形で役に立つかわからない」と今井さんは振り返る。それは、実際に仕事をし始めてからもしばしば感じることなのだそうだ。
 シュークリームでは女性向け漫画雑誌の編集に携わっており、作家と会う機会が頻繁にある。彼らとの打ち合わせにおいて大事なのは、「相手の描きたいものを尊重した上で、自分の考えを伝えること 」だという。一般に編集者は作家の黒子だが、情報や意見を伝えることで描かれる世界に広がりが出てくることも実際には多くある。そして「自分の考えを伝えること」においては、芸術学科在学中にこなしたたくさんのレポート課題で培った能力が生きているという。自分が感じたことや考えたことをきちんと言語化する力を鍛えられたのである。
 今井さんは電子コミックの表紙やグッズのデザインも担当することがある 。学生時代にしていた映画館のアルバイトで映画上映のタイムテーブルをAdobeのデザインソフト『Illustrator』で作っていた経験から任されたという。「学生時代にはたとえどんな些細なことにでも取り組んでおくものだなと、今となっては思います」と語る今井さんの言葉には、強い説得力を感じた。
 「この人と仕事をすることができてよかった」今井さんに思い出深かった仕事について聞くと、とある作家のことを語り始めた。
 「持ち込みで拝見した際、少し拙かったのですが漫画の構成や、登場人物の表情に光るものがある方がいました。『また“これぞ!”という作品があれば、ぜひ見せてください』と伝えて名刺を渡したところ、本当に次の作品を送ってきてくださったんです」その応募がきっかけで作画を担当してもらうことになった作品は、テレビCMやネット広告などを通じて周知を図ることができた。
 「別の作品を仕上げた際に私の言葉を思い出してくれたことはもちろん、それをきっかけにたくさんの人に読んでもらえる作品を一緒に作れたことがうれしかった」
 作家の努力が実を結んだ際、やりがいが感じられる仕事なのだと今井さんは目を輝かせながら教えてくれた。


取材・文・撮影=眞田拓東

※本記事は『R』(2020)からの転載です。