萬代とし栄(水上印刷 DTP オペレーター)

萬代とし栄(まんだい・としえ)

1992年生まれ。2015年多摩美術大学卒。ゼミでは、ADOBE IllustratorやPhotoshop等を使ったフリーペーパー制作に携わる。卒業後は紙媒体の仕事に携わりたいと考え、印刷業界メインで就職活動を開始し、第一志望の水上印刷に入社。DTPの基礎を学び、有名外食チェーンのオペレーターを担当した後、現在に至るまで某コンビニエンスストアのオペレーターを担当。18年には、制作部DTPチームのチーフを1年間務める。

紙媒体を通し、自分の仕事が社会の一部に


DTPオペレーターとして、顧客のニーズに応えながら、印刷データの作成や写真の色味補正などを手掛ける。在学中にフィールドワーク設計ゼミで培ったスキルを生かして現在も情熱をもって仕事を続ける萬代とし栄さんの、仕事・紙媒体に対する思いとは。

 萬代とし栄さんは、2015年の芸術学科卒業生だ。在学中はフィールドワーク設計ゼミに所属し、フリーペーパー制作に携わった。もともと紙媒体が好きで印刷系のソフトウェアを使った仕事を視野に入れていたこともあり、印刷業界メインで就職活動を開始。第一志望の水上印刷にDTPオペレーターとして入社を果たす。
 入社後は有名外食チェーンの仕事を経て、2018年からコンンビニエンスストア関係の仕事を担当している。コンビニは毎週新商品を発売するため、仕事の依頼から印刷までのスパンが短く、忙しい時期は終電に間に合わない日々が続いた。楽しい反面、全国規模の仕事で絶対に間違えられないというプレッシャーがあるなかで、萬代さんは「自分が手掛けたものを街中で見られることが何よりうれしい。この仕事は私にとって天職です」と語る。
 以前は内向的な性格だったというが、ゼミ時代の取材経験を通して怖気づかず人と関わることを心掛けるようになった。このことが、現在の仕事にもつながっているという。社交性や先入観を持たない姿勢が評価され、DTPオペレーターには珍しく、営業担当者に同行して顧客の人たちと対話する機会を多く持てるようになったのだ。食べ物写真の色味補正はオペレーターのセンスに委ねられる面が大きく、明確な答えがない。対話を通して顧客の好みの傾向を把握できることは大きな強みとなった。「自分の好きなようにはいくらでもできるけど、お客さんのお手伝いが第一です。顔も知らない人からの意見と、会ったことのある人からの意見だと感じ方も違いますし、お客さんの顔を思い浮かべて頑張ろうという気持ちになります」と語る様子からは、数々の依頼に応えてきた真摯な姿勢が垣間見える。
 幼い頃から本などの紙媒体が好きだった萬代さんは、ウェブ媒体が増えている現在だからこそ印刷物としての紙の力を感じている。紙の見本市に足を運ぶ際に注目するのは、やはり紙の繊維・質感なのだそうだ。物質としての紙の魅力に加え、種類によって印刷時の色味や雰囲気がさまざまに変化する表現の可能性についても考えさせられる。
 印象に残っている仕事について聞くと、初めてひとりで担当した仕事のことを語った。夜遅くまでパソコンと向き合い写真の色味補正を行うことは、重くのしかかる責任も相まって、非常に辛かった。しかし翌朝出勤すると、先輩からの付箋が貼られた完成品が机に置いてあり、うれしさのあまり涙があふれた。ただがむしゃらに突き進んだ入社1年目。その後も走り続けた萬代さんは、チーフとして後輩の面倒を見た経験や顧客との対話を経て、周囲や相手のことを考えられるようになったという。「同期や先輩と頑張った当時があったからこそ、今落ち着いて仕事ができているのだと思います」と当時を振り返る笑顔はまぶしかった。今も昔も変わらない「紙媒体に関わりたい」という思いを胸に、今日も萬代さんはパソコンに向かう。


取材・撮影・文・レイアウト=井上凜

※本記事は『R』(2022)からの転載です。


入社後初の担当パンフレット。先輩の付箋と共に現在でも大切に保管している