森司(アートディレクター)

森司(もり・つかさ)

1960年愛知県生まれ。
多摩美術大学芸術学科卒業。
水戸芸術館で学芸員を務めた後、公益財団法人東京都歴史文化財団アーツ・カウンシル東京事業推進室事業調整課長に就任。
東京アートポイント計画には立ち上げからかかわり、ディレクターとしてNPO法人等と協同でアートプロジェクトの企画運営や人材育成事業Tokyo Art Research Labを手がける。

街なかにアートを届ける
プロジェクトを運営する人材を育成


美術を街なかで展開するアートプロジェクトが盛んになってきた。
ところが、マネジメントをする人材が足りないという。
そのための支援をするのが、森司さんの仕事だ。
森さんが校長を務める「思考と技術と対話の学校」では、
さまざまな授業が開かれている。

 街なかでのアート活動が活発になっている。作品を展示した下町の商店街の空き家などを鑑賞者が巡り歩けるように、会場や地図などの配布資料などを主催者が準備し、運営管理する。「アートプロジェクト」と呼ばれる試みである。
 現代美術を楽しむ人が増えているが、ここで一つの問題が生じている。アートプロジェクトの現場をマネジメントできる人材が足りないのだ。
 そんな状況を打開しようと奮闘しているのが、森司さんの仕事である。森さんは、アートをマネジメントできる人材育成やNPO等がアートプロジェクトを展開する手助けをする中間支援を主な活動とするアーツカウンシル東京の事業推進室で、ディレクターを務めている。
 アーツカウンシル東京は、東京都千代田区の廃校になった中学校の校舎を再利用した民間運営のアートの拠点、アーツ千代田3331の一室で、スクーリング活動を展開している。「人材育成事業」の一環として、Tokyo Art research Labという事業名で「思考と技術と対話の学校」を開催している。森さんはこの学校の校長だ。
 取材した日は、「いたみの共有は可能か?」のテーマでトークセッションが行われていた。主催は、「多様性」と「境界」に関する諸問題を研究し、ジャーナル「東京迂回研究」を刊行するNPO。彼らは、アーツカウンシル東京が展開する「東京アートポイント計画」の共催NPOとして、先の震災で被災した仙台市で対話の場を開いてきた「てつがくカフェ@せんだい」の西村高宏さんと近田真美子さんをゲスト講師にむかえていた。20代後半から60代後半くらいと見られる参加者が椅子を大きな輪になるように移動し、司会の西村さんの進行のもと、活発に意見を交換していた。
 取材中、森さんは、「今こんなに必要な仕事はほかにないでしょう!」と言い、笑顔を見せた。もともと企画を練るのが得意。キュレーションをするのはとても楽しいという。その喜びはこんな言葉にも表れている。
 「企画を立てた時が胎内に命が宿った時だとしたら、発表は子どもの誕生なんです」
 今後の仕事のビジョンについて尋ねると、“看取り”という答えが返ってきた。東京オリンピックが開催される2020年に向けて文化関係のプロジェクトも動き始めてはいるけど、同時に多死社会を迎える日本では、美術は社会との関係を問う活動が必要な時代になりつつある。
 「人や社会に必要とされる美術のあり方を探るには、今がいいタイミングです。2020年は、一つの区切りになります。その次のタイミングでは、“看取る”こと展開のテーマとなり、そのための方法、手法が必要となります」
 森さんの目は、2020年以降を見つめていた。



 取材=後藤翠、小野都
 文=後藤翠
 撮影=小野都

※本記事は『R』(2017)からの転載です。