村尾 青空《骨格標本 ごんぎつね》

 標本とは一般に、全体から取り出された部分としての個体を指す。種を代表する運命を、その個が、負わされる。この『ごんぎつね』の骨格標本も、原理は同じといえるかどうか。絵本の世界から、この世界へという、異なる通路を通るのだ。しかしこの骨は、どこにも居場所がないようにさえ見えてくる。
 骨子は、誰もが知る絵本からとられた。語は物語の骨格から抜かれ、同時に標本の姿を形成した。兵十に撃たれ、横たわるごんの、最後の姿が重なった。
 しかし不能の道を通るために、肉は削がれたか。共有の頁から、どれほどのものを捨て去って、孤独の場所は目指されるのか。
[K. Miyaura]