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 多摩美術大学芸術学科では、本学科の素顔を見せる雑誌『R』(編集長:小川敦生教授)の記事を電子版で配信いたします!

 多摩美芸学とは、一体どんなことを学ぶところなのか?本学科の授業でよく出てくる用語から眺めてみました。一味違った芸学の姿が見えてきますよ!


A:Art Archive(アートアーカイヴ)

施設で保存・管理されている芸術資料。作家や作品の研究に欠かせない。本学には瀧口修造、もの派、和田誠などの多数の資料があり、本学科の「アーカイヴ設計」ゼミ等で活用に取り組んでいる。

 

B:Book(書物)

一冊の本は、単に文章を読むためだけの媒体ではない。本学科では、ひとつの「モノ」として紙質、フォントの違いなど、装幀によって異なる「顔」を観察するなど多様なアプローチを図っている。

 

C:Criticism(批評)

美術史の成立に先立つ議論、前例のない芸術表現に対して、仮説を立てて論じること。さらなる芸術の展開の可能性を切り開く。

 

D:Decorative Art(装飾美術)

機能的でありながら、豊かな装飾を施されたモノを指し、工芸に分類されることも多い。西洋では長い間ファインアートよりも下に置かれたが、位置づけや境界線がどこにあるのかを改めて考え直すときが来ている?

 

E:Exhibition(展覧会)

作品の解釈・展示空間の構築など、美術作品やアーティストと観客の間に立つキュレーターの展示理論の追究・実践を通して生まれる空間。「展覧会設計」ゼミを有するのは本学科の特徴でもある。 

 

F:Fieldwork(フィールドワーク)

研究対象となる人や物や土地を実際に訪ねて調査すること。身体で直接感得した知見から、思考はより拡大される。本学科では、民俗学の研究のほか、雑誌制作のゼミにも組み込まれている。

 

G:芸術人類学(Art Anthropology)

先史時代から現代まで、人類の創造活動の意味を探求する学問。本学の芸術人類学研究所では、本学科の数人の教員が盛んに活動を展開している。

 

H:History of Art(美術史)

美術の歴史を研究対象とした学問である。史料や実作品を元に実証的な手法で史実の究明に臨む。本学科の根幹を成す学問分野の一つ。

 

I:Iconography(図像解釈学)

絵画に描かれている図像を読み解く学問である。美術史家エルヴィン・パノフスキー​​らが、作品の意味や内容を社会的背景と結びつけて広く深く解釈する研究方法へと展開した。

 

J:縄文

岡本太郎は、従来考古学的遺物とされていた縄文土器の造形に原始的な情熱を感じ、現代の芸術表現につながる人類の普遍的な創造性を発見した。本学科にも、縄文をテーマにした授業がある。

 

K:ことば

人間の思考の礎である。五感で受け止めた芸術を「ことば」で捉え直すことで、より深い享受が可能になる。そして、芸術学科は「ことば」で芸術を探究する学科である。

 

L:Literature(文学)

ことばで成り立つ芸術。文学作品では、作家はさまざまなイメージを言語化して表現する。神話や和歌をはじめ、美術作品の源泉になっている文学作品は多い。本学科の学生も頻繁に研究のテーマにしてきた。

 

M:Museology(博物館学)

歴史的発展をはじめ、機能、運営、資料保存、展示、情報発信など多様な視点で博物館・美術館を研究する学問。特に美術館は美術作品の重要な展示・収蔵・研究の場となっているので、本学科でも重要な研究分野である。

 

N:Nature(自然)

芸術が人間の創造の極致にあるものだと考えれば、自然は相対する存在ということになる。相対する存在だからこそ人間はいつも自然に触発され、芸術を創り出そうとするのである。

 

O:音

絵画と彫刻が美術の標準的な形式だった時代とは異なり、現代美術では「音」を素材の一つとして積極的に使うようになってきた。本学科にも「音」と美術との関係を探求する授業があり、卒論などのテーマに選ぶ学生もいる。

 

P:Primitive Art(プリミティブ・アート)

一般的には「原始美術」と訳され、アフリカやオセアニア等の民族美術を指す。ピカソなど影響を受けた西欧の作家も多数おり、アール・ブリュット(生の芸術)に近い概念で捉えられることもある。美術史および芸術人類学上重要な概念である。

 

Q:Question(疑問)

すべての学問はここから始まる。芸術に関する疑問は解くのが著しく難しいことが多いかもしれないが、それだけに取り組みがいがある。

 

R:Research(研究)

芸術学科の略称「R」は、この単語に由来してつけられた。作品制作をメインにする多摩美術大学の他の学科とまったく違うことを象徴することばでもある。本誌の誌名にもつながった。

 

S:祝祭

祝祭は時間と空間の境目で行われ、あの世とこの世、過去と現在などの二つの世界を結びつける……といったことを授業ではしばしば考える。本学科の重要なテーマの一つである。

 

T:東野芳明(Tono Yoshiaki)

多摩美術大学芸術学科を創設した美術批評家。美術を社会の中の「現象」として横断的に捉えた。積極的な鑑賞者・表現者の育成という理念は現在の本学科にも引き継がれている。

 

U:Unique(独自性)

どの行為・表現も何らかの模倣から始めるが、人は自然に独自性を志向し、芸術作品が生まれる。芸術学科が向き合っている根本的なテーマである。

 

V:Visible(可視化)

絵画などの視覚芸術は、目に見える風景をただ写しているわけではない。人間の心の情動や思考を可視化した側面があり、むしろそれゆえに多様で個性的な作品が生まれるのだ。

 

W:「わたし」

いつも物事を認識する主体となる「わたし」は、芸術の制作や鑑賞する際も主体である。あえて「わたし」を客観視すると、新たな創造や経験につながることもある。

 

X:✕(記号としてのバツ)

✕(バツ)と言わないことがむしろ大切。既成概念にとらわれず、好奇心とオープンマインドで、あらゆる未知な物事に潜む可能性を拒まずに受け止めるのは、芸術学科のミッションとも言えるだろう。

 

Y:余白

原則として、平面作品で画面に何も描かれていない部分のことを指す。東洋美術における空間の捉え方。本学科でも4年生くらいになると、単位のほとんどを取ってしまって授業の余白を持つ学生がけっこうたくさんいる。

 

Z:前衛

既存の芸術概念や形式を否定したり逸脱したりし、常に芸術の最前線で革新的・実験的な芸術表現を次々と生み出す芸術家たちの動向。前衛は芸術の基本でもある。

 

構成=洪美棋

 

※本記事は、『R』2023版(2023年3月15日発行予定)に掲載されます。