多摩美術大学芸術学科では、本学科の素顔を見せる雑誌『R』(編集長:小川敦生教授)の記事を電子版で配信いたします!
芸術学科は、美術史や批評などを学ぶ本学唯一の理論の学科。実技を主としない芸学生たちは、芸術の中でいったいどんなことに興味を持っているのだろうという疑問が湧いた。そこで、展覧会や演劇、映画、または美術館そのものなどの芸術に関わるものの中から学生6人の「My Favorite Things」ベスト3を調査した。(※開催場所が複数ある場合は、学生本人が行った場所のみを記載しています)
坂本美優さん(2年)
①『加藤泉-LIKE A ROLLING SNOWBALL』展
原美術館(東京・品川区)で鑑賞
外出先でたまたま出合った展覧会。何気なく入ってみて驚いた。大小さまざまな彫刻から、絵画まで。静かで不気味な大迫力の空間だった。
②『竜とそばかすの姫』(細田守監督)
シネマサンシャイン土浦(茨城県・土浦市)で鑑賞
色鮮やかで神秘的な表現と、ダイナミックな構図。仮想世界に飲み込まれるようだった。物語も現代にぴったりで、人間の闇や恋愛感情、人を思う温かい気持ちが際立っていた。
③『RAB アニソンダンスライブ in Zeep DiverCity』
Zeep DiverCity(東京・江東区)で鑑賞
いつもはネット上で見ていたアニソンダンスパフォーマー、RAB(リアルアキバボーイズ)。ある日、Twitterで「良い席+特典のチケットが余っている」という情報を入手し、「これは行くしかない」と生の現場に初参加。リアルなパフォーマンスは、YouTubeの動画とは全く違っていた。話しかけてきてくれた隣の人とも一緒に盛り上がることができて楽しかった!
廣木花ノ子さん(2年)
①シネマ歌舞伎『桜姫東文章 上の巻/下の巻』
109シネマズ二子玉川(東京・世田谷区)で鑑賞
片岡仁左衛門と坂東玉三郎、発声から所作から目が離せない。見せ場もかっこいい! 歌舞伎は物語も大事だけれど、それ以上に「舞」という感じがする。七五調のしゃべりや衣装が好きで見ているのかも。
②宝塚歌劇 星組公演『ロミオとジュリエット』
東京宝塚劇場(東京・千代田区)で鑑賞
『ロミオとジュリエット』数度目の宝塚化。「宝塚ではこれで完成でいいんじゃないか?!」と思うほどの出来栄え。ロミオを先導するジュリエット像が新しく、自分の解釈と合致していて「これだよこれ!」と思った(笑)。「死」の役も素晴らしかった。ファンタジーな世界観ときらびやかで非日常的な衣装にも強く引かれる。
③ヤニィーズ『オイテイク。』
神奈川県立青少年センタースタジオHIKARI(神奈川県・横浜市)で鑑賞
考えさせられる作品。悲しい・うれしいではなく、ひたすら涙が出た。言葉に関する新たな発見も面白い。それが演劇が好きな理由かもしれない。
藤本泰輔さん(2年)
①『石田徹也展―ノート、夢のしるし』
静岡県立美術館(静岡県・静岡市)で鑑賞
当時、知識なしに鑑賞して純粋に感動した。異常なのに誰も見ていないかのような孤独感。一見不気味でぶっ飛んでいるのだけれど、実は題材は身近であったり。
②バンプレスト『アンパンマンの空中大作戦』のバイキンUFO
モーリーファンタジー 浜松西店(静岡県・浜松市)で鑑賞
ゲームセンター、モーリーファンタジーで見つけたアトラクション『アンパンマンの空中大作戦』の装飾部分であるバイキンUFO。フォルム、色、クリアな感じ、置き場、光沢、大きさ、バランス、宙に浮いているさま、中にジャストサイズのばいきんまんが入っている所…全てが完璧。そんなバイキンUFOに、狂ったように引かれた。
③神聖かまってちゃん『Net Generation.’21』
LIQUIDROOM(東京・渋谷区)で鑑賞
神聖かまってちゃんは、反抗的で過激なバンド。魂が解放されていて、とにかくぶっ飛んでいる。そのパフォーマンスは、お客さんに聴かせるというより自己の熱を放出しているといったほうがよく当てはまる。根本的な固定観念を破壊するような…。汚らしいのに全体で見るときれいで、まさに「神聖」な感じ。乗りやすいなどといったことは一切ないけれど心に来る。最高のライブだった。
網代瞳子さん(1年)
①印刷博物館(東京・文京区)
展示室につながるプロローグの展示が印象的。作品のレプリカが展示されていて、時代の流れが一目で感じられる。作品や機械も面白いけれど、 展示方法が魅力。
②根津美術館(東京・港区)
隈研吾さん設計のこの美術館は建物自体が美しく、癒される。敷地内の庭園を周るのも楽しい。「日本および東洋の古美術を展示する美術館」というのが空間全体から伝わる。
③GOOD DESIGN Marunouchi(東京・千代田区)
展示スペースは大きくないが学びが多い。デザインと人のつながりが分かる場所。スタッフの方の解説が楽しい。 冊子類のクオリティが高く、持ち帰れるのがうれしい。
森下乃々佳さん(1年)
①大塚国際美術館(徳島県・鳴門市)
古代の壁画から世界26カ国の美術館が所蔵する現代までの西洋絵画 約1000点を陶板で原寸大に再現。写真撮影OK。鑑賞ルート4kmを周るのに時間はかかるけれど、とても楽しい。
②外山康雄 野の花館(新潟県・南魚沼市)
民家のような外観。外山康雄さんのスケッチが、本物の花々と一緒に飾られている。心穏やかになれる場所。ご本人も高確率でいらっしゃるので、本を買えばサインがもらえる。
③高尾山トリックアート美術館(東京・八王子市)
部屋ごとにトリックアートの部屋が何ヶ所もある。密度がすごい。カメラOKなのでSNS映えする写真が撮り放題。館内は狭くて平日も混むので、午前中に行くのがオススメ。
政井新さん(1年)
①『ORANGE RANGE LIVE TOUR 018-019 ~ELEVEN PIECE〜』
NHKホール(東京・渋谷区)で鑑賞
ご縁がありライブの舞台に参加、その後ライブも見た。初めてのライブで感動した! ホールのまぶしさが新鮮だった。
②『へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで』
府中市美術館(東京・府中市)で鑑賞
ヘタウマな絵がかわいい。知識がなくても楽しめた。作品のスタンプが押せたり版画の体験ができたりして楽しかった。美術館に興味を持ち始めるきっかけとなった展示。
③三鷹の森ジブリ美術館(東京・三鷹市)
3階分の吹き抜けに、空中廊下やどこにつながるかが分からない螺旋(らせん)階段。迷路のようでワクワクする。住みたくなるくらいいい所だ。カオナシの靴下がかわいいのでオススメ。
今回の調査で、芸学生の趣味嗜好が実に幅広いことが分かった。専門的な展示などといった正統派の芸術のみならず、エンタメ的な要素の強いイベントなども、あえて区別することなく興味関心のままに楽しんでいることが伝わってくる。単に受け入れて満足することに留まらず、それぞれが独自の観点をもって鑑賞する姿勢がうかがえた。
取材・文=齊藤愛琴、松倉眞優
撮影(*)=松倉眞優
※本記事は、『R』2023版(2023年3月15日発行予定)に掲載されます。