「タマガ」とは/本学科フィールドワーク設計ゼミが発行しているウェブマガジンです。芸術関連のニュース、展覧会評、書評、美術館探訪記、美術家のインタビューなどアートにかかわる様々な記事を掲載します。
降り注ぐ日差し。きらめく新緑の樹々。例年になく短い梅雨が終わり、関東では本格的な夏の到来を告げるように晴れやかな日々が続いていた。平成最後の夏を皆は一体どうやって過ごすのだろう。芸術の秋ならぬ、〝アートな夏〟というのも悪くない。自然豊かな日本の風土を愛でつつ、アート作品に囲まれて過ごす。そんな最高の夏を始めるにふさわしい地を求めて記者は旅立った。行き先は神奈川県箱根町。緑いっぱいの尾根に囲まれ湯けむり香る観光地は、実は自然とアートが共生する極上のスポットだったのである。
7月2日。バスを降りると、梅雨明けのからりとした陽気に包まれた。あおあおとした樹々に混じり点々と咲くヤマボウシが観光客の心を和ませる。あふれんばかりのみずみずしい生命力に満ちた木々の先にあるガラス張りの洒落たエントランス。箱根のアートスポットの一つ、ポーラ美術館だ。「自然との共生」をうたい洗練されていながらも見事に箱根の山々としっくりと調和している建築、あまりにも充実した印象派コレクションとその見所は挙げていたらきりがない。
この日同館で開かれていたのは、今年3月から開催されている企画展「エミール・ガレ 自然の蒐集」(7月16日まで)。アール・ヌーヴォーの第一人者にして博物学にも造詣が深かったエミール・ガレ(1846〜1904年)のガラス作品を中心に構成した展覧会だ。特筆すべきは、作品に登場する動植物の標本や博物画、植物をモチーフにしたモネなどの絵を並べたことだろう。ガレが自然へ向けるまなざしがいかに鋭く熱いものであったかを感じ、時代が動植物とどう向き合ってきたかにも思いが向く。
ガレの作品は、動植物を単なる装飾モチーフとして扱うには留まらない。むしろそれらが逆にガラスを侵蝕するような造形は彫刻のようでさえあり、色彩に対する追求も深い。晩年の作品はとりわけその傾向が顕著だ。花や虫が実際にそこに存在するかのように器の形状を表出させているのである。「リアル」というよりも「生々しい」という表現のほうが妥当と思えるほどだ。
ガレはフランスの作家だが、日本を想起させるものもあった。例えばアジサイをモチーフにした「紫陽花文ランプ」や「紫陽花文花器」。その淡い色調は梅雨の匂い立つ雨の香りや、白くけぶる視界を想起させる。ちょうど取材で訪れたときに乗った箱根登山鉄道で目にした満開の美しいアジサイそのものだった。
取材・文・撮影=豊島瑠南
撮影=小川敦生(*1)、豊島瑠南(*2)
企画展「エミール・ガレ 自然の蒐集」
2018年3月17日〜7月16日
神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
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