最近、「YouTuber」という職業が話題になっている。YouTuberとは、動画サイトのYouTubeに自分が写っている動画をアップロードし、その広告収入で利益を上げて生業としている人たちのことである。動画の内容は様々だ。日常的な風景を撮ったものから専門性の高いものまで存在する。YouTubeの規約に反していなければ、内容は自由である。
例えば、代表的なYouTuberとして知られる吉田ちかさんは、2011年6月以来、『バイリンガール英会話』という番組を200回以上アップロードしている。「“A”and“The”の使い分け」といった初歩的な講義に始まり、「謝る時」「不安を乗り越える方法」など状況に応じたフレーズの使い方といった実践的な内容で構成している。数十万再生を記録した回も多く、語学番組を擁する既存の放送局から見ても侮れない存在だ。
こうした動画サイトに配信するには、既存の放送局のような大きな設備や投資は必要ない。パソコンと動画が撮影可能なカメラを持っていれば、映像の編集やオンエアも一人でできるので、誰でもYouTuberになれるのだ。企画力や披露できる特技を持ち、自ら出演する決心がつけば、後は実行するだけだ。
ここで改めて、なぜこうした仕事が成り立つようになったかを振り返ってみた。まず、YouTubeについて。YouTubeは「皆で簡単にビデオ映像を共有できれば」と考えていた米国のチャド・ハーリーらが2005年に始めた動画投稿配信サービスである。当初は著作権を無視した多くのユーザーの運用が問題になり、何度となく窮地に立った。しかし、ユーザーの受け入れが進むにつれてYouTubeは市民権を獲得していった。利用者が多ければ、スポンサーがつくのは自然の流れだ。広告が無料放送を支えるのは従来の民放のビジネスモデルだが、それがYouTubeでも可能になる。しかも個人という小さな存在に広告主がつくのである。そして生まれたのがYouTuberだった。
YouTuberは自身の顔を動画で公開し、時に、テレビに出て来るタレントのように振る舞う。人気のYouTuberの収入が高く、人気がなければあまり稼げないのも芸能人と似ている。一方で、誰でもできそうなところには身近さを感じる。むしろ、YouTuberの登場によって芸能人のあり方が変容しつつあるのかもしれない。
取材・文=荒井洋平
「タマガ」とは=多摩美術大学芸術学科フィールドワーク設計ゼミが発行しているWebzine(ウェブマガジン)です。芸術関連のニュース、展覧会評、書評、美術館探訪記、美術家のインタビューなどアートにかかわる様々な記事を掲載します。猫のシンボルマークは、本学グラフィックデザイン学科の椿美沙さんが制作したものです。