【Webzineタマガ】日常の中にアートを取り戻すコンペ「Tokyo Midtown Award 2014」〜アートコンペ[後編]〜/タマガリポート

彫刻家の土屋公雄さんがデザインした「Tokyo Midtown Award 2014」のトロフィー『Moon』(*1)

彫刻家の土屋公雄さんがデザインした「Tokyo Midtown Award 2014」のトロフィー『Moon』(*1)

授賞式の終わりにアート部門の受賞者達の写真撮影が行われた。カメラマンの「アートなポーズをして!」という突然の一言に動じることもなくポーズを決める受賞者たち(*2)

授賞式の終わりにアート部門の受賞者達の写真撮影が行われた。カメラマンの「アートなポーズをして!」という突然の一言に動じることもなくポーズを決める受賞者たち(*2)

金属造形家の原田武さんの作品『群雄割拠』(写真提供=東京ミッドタウン)

金属造形家の原田武さんの作品『群雄割拠』(写真提供=東京ミッドタウン)

 都営地下鉄大江戸線「六本木駅」8番出口から上りのエスカレーターに乗ると、東京ミッドタウンプラザのB1Fに出る。そこからミッドタウン・タワーへと向かう道の途中に、突如としてコンクリートのブロック塀が現れる。「住宅街にあるようなブロック塀がなぜこんなところにあるのだろう」と違和感を覚えながらも、近づいてみると芸術作品だと分かる。それは、長い年月を耐えてきたブロック塀を金属で精巧に表現した作品だった。周りにはトンボやアリなどの小さな生き物がいて、どこかに懐かしさを感じる。実はこの作品、虫や草花も含め、すべてが金属でできている。『群雄割拠』と題されたこの彫刻の作者は、金属造形家の原田武さん。「Tokyo Midtown Award 2014」アートコンペのグランプリに輝いた作品だ。美術館の展示室ではなく、六本木という大都会で日常的に往来がある場所にあるからこそ、人々の心に訴えかけ、その底から何かを呼び覚ます。そんな作品だった。

 これまで毎年、この賞のアートコンペには「JAPAN VALUE」「都市」などのテーマが設けられていた。今年はそのテーマが「なし」に。テーマが存在しないと見るか、そこに空白や虚無があるように見るか。受け止め方は応募者によって異なっていた。結果的に、「空虚」「Empty」といったイメージの作品が多く集まったという。一方、この「なし」には「自由に、六本木であなたが表現したいことを」という主催者側の思いがあった。審査員の児島やよいさんは「審査を通りたいと思ってコンペの雰囲気に合わせてくる応募者は多い。ただ、無理矢理コンペに合わせてきたものは分かる。自分が日頃から制作の上で大事にしているものを素直に出してほしい。そんな願いを込めた」と語る。ファイナリスト6人の作品を見ると、自分が訴えたいものを大事にしていることが伝わってくる。やはり、作品には人間性や思いがにじむものなのだろう。

 このコンペのグランプリ受賞者には、賞金100万円が贈られるほか、副賞としてハワイ大学のアートプログラムに招聘される。米国とはいってもいわゆる西洋とは異なる文化を持つ土地への滞在経験を賞にするのはユニークだ。加えて、アートコンペおよびデザインコンペの受賞者14組に贈られるトロフィーも、よくあるゴルフなどのトロフィーとはまったく違う。毎年、美術家やデザイナーがその年用にデザインする貴重な「作品」だ。今年のデザインを担当したのは、審査員でもある彫刻家の土屋公雄さん。土屋さんが選んだ素材はイタリア産の大理石、ビアンコカラーラ。「若い作家のこれからが満ちていくように」という思いから、満月に近い12番目の月を表現したトロフィーが完成した。

 展示環境や最終審査に残ったファイナリストへの制作金補助から副賞やトロフィーにいたるまでの様々なことには、発掘されるべき若手クリエイターたちに、できるだけ実のある支援をしようという思いが込められているように見える。

 「このアワードの目的は、六本木という街のブランディングにあります。10年はもちろん、20年は続けていくつもりです」と話すのは、東京ミッドタウンマネジメント代表取締役社長の中村康浩さん。20年続ければ、世界で活躍する作家が出てくるかもしれない。作家の経歴にアワードの名前が入る。それが「アートとデザインの街東京ミッドタウン」というブランディングにつながるというわけだ。

 純粋に儲かった結果として社会還元のために行う支援や寄付は、儲からなくなると終わってしまう。むしろ目的を明確にすれば、支援は持続する。環境保護にしろ企業メセナにしろ、「持続」は時代の大きな課題である。「10回くらいではまだまだです。30年後、受賞者の中から審査員になるようなクリエイターが出てくるようになればとても嬉しい」と話す中村さんの笑顔が印象に残った。

※[前編]はこちらをご覧ください。

取材・文=韓松鈴
撮影=今井楓(*1、*2、*4)ミヤザワカナ(*3)

 


「タマガ」とは=多摩美術大学芸術学科フィールドワーク設計ゼミが発行しているWebzine(ウェブマガジン)です。芸術関連のニュース、展覧会評、書評、美術館探訪記、美術家のインタビューなどアートにかかわる様々な記事を掲載します。猫のシンボルマークは、本学グラフィックデザイン学科の椿美沙さんが制作したものです。


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気に入った作品のボタンを押すだけで審査に参加することができるオーディエンス賞もある(*4)

気に入った作品のボタンを押すだけで審査に参加することができるオーディエンス賞も実施された(*4)