【Webzineタマガ】会田誠が描いたサラリーマンの山はここにあった/タマガこの1点

会田誠「灰色の山」

会田誠「灰色の山」(2009〜11年)展示風景(岐阜県美術館「てくてく現代美術世界一周」展より)

 炭鉱のボタ山のような盛り上がりが並ぶ風景を、モノトーンを基調に描いた一枚の絵。縦3m×横7mの大作である。近寄ってみると、はかばかしくない何かを暗示しているような空気がみなぎっている。それぞれの盛り上がりは、人が積み重なってできたものであり、みなサラリーマンの格好をして倒れているように見える。作者は現代美術家の会田誠。作品名は「灰色の山」。岐阜市の岐阜県美術館で開催中の「てくてく現代美術世界一周」展に出品されている。

 ボタ山のように感じるのが、画家の意図だったかどうかは分からない。しかし、ボタ山を構成する石炭採掘現場の捨て石が“近代日本の遺物”である点を考えれば、あながち的外れの連想とは言えないだろう。折しも、会田の着想を逆方向から確かめるかのように、福岡県の三池炭鉱が、同県の官営八幡製鉄所など他の明治時代の産業関連の遺物とともに世界文化遺産への登録の見通しが立つというニュースが飛び込んできたところだ。

b会田誠「灰色の山」(部分2,タグチアートコレクション)

 何かを生み出すために採掘され、結局はいらないからと捨てられてしまう「ボタ」。すべてのサラリーマンが「ボタ」のようだとすると、あまりに悲しい。たとえゾンビと言われようとも、むくむくと起き上がっていい人生を生きてほしい。強い働きかけがある会田の作品を前にすると、そうした様々なことを考えさせられる。

 そして、そんな絵がこの展覧会に出品されていることに、大きな感慨を覚えざるをえない。それは、コレクションの主である田口弘さんが企業の経営者だからだ。実は「灰色の山」はこれまでにも森美術館やミヅマアートギャラリーなどで展示された履歴を持つ話題作だった。しかし、サラリーマンをテーマに描いたこの大作が企業経営者の手元にあること自体、極めて意義深い。

 「アートはビジネスよりもずっと進んでいる」と田口さんは言う。アートが発想の宝庫であることも、ビジネスが常に斬新な発想を求めていることも間違いない。アートがビジネスや企業社会のあり方を刺激するなら、極めて興味深い話である。

取材・撮影・文=小川敦生

「タグチヒロシ・アートコレクション パラダイムシフト/てくてく現代美術世界一周」
2015年2月3日〜5月17日、岐阜県美術館(岐阜市)

実業家で現代美術コレクターの田口弘氏が収集した180点にのぼる現代美術作品で構成した展覧会。米国のキース・ヘリングに始まったという収集作家の出身地はアジア、欧州、北米、南米、アジアなど。草間彌生、杉本博司、奈良美智、加藤泉、塩田千春照屋勇賢、名和晃平など日本美術のコレクションも厚い。


「タマガ」とは=多摩美術大学芸術学科フィールドワーク設計ゼミが発行しているWebzine(ウェブマガジン)です。芸術関連のニュース、展覧会評、書評、美術館探訪記、美術家のインタビューなどアートにかかわる様々な記事を掲載します。猫のシンボルマークは、本学グラフィックデザイン学科の椿美沙さんが制作したものです。