ImageForumFestival2015レポート2〜『その家の名前』坂上直〜

『その家の名前』坂上直

(2015/デジタル/カラー/5分)

 イメージフォーラムフェスティバル2015大賞作品。この映像作品は端的に言ってシンプルなものである。床の畳がスピーディーめくれていったり、障子が破れていったりするのみで、何か大きなオチがあったりするわけでもない。この作品が大賞に選ばれた理由としては、アニメーション作品でありながら、ある種実写的である点、コンセプチュアルでありながら即興性がうかがえるという点が挙げられている。ひたすら古びた家が壊され、バリバリと不気味な音と共に流れてくる映像からは、恐怖・嫉妬・憎しみなどネガティブな感情を抱く人も多いかもしれない。

 しかし、本当に焦点を当てるべきは、この家が、作者である坂上氏の祖母が、両親が、そして坂上氏本人が長年暮らしていた家であったということだ。今回制作にあたって作者本人がどのようなことを思い、感じたのか。それは、恐怖・嫉妬・憎しみとは全く異なるものであったということは容易に想像できよう。当たり前にあった日常が、時間の流れによって淘汰され、朽ちて変わりゆくこと。やがて、その存在や名前さえ忘れられてしまうこと。そこにある寂しさ、虚しさを表現した作品であるということをむしろ評価すべきなのである。

文=中井健太郎