ムンバイに住む町で最後の映画看板描きシェイク・レーマンを追ったドキュメンタリー。インドでは、大手シネコンの台頭や、ビデオ、テレビを含む映画以外の娯楽の発展の影響を受け、町の映画館は荒波の中にある。
彼らの映画館の経営も例外ではなく、近隣にもある映画館との関係、施設の老朽化はさらに追い打ちをかけていく。日に日に減る売り上げをマーケティングによって打開するために、
より目を張るプラスチック製の看板への移行を決意し、彼を首にする事にした。
しかし、彼の看板にはこの映画を見たいと思わせるための仕掛けがある。
ストーリーの鍵となるモチーフを大きく取り上げ、俳優や女優の作中における関係性から絵のタッチや色味を変える。これらは、手仕事だからこそ出せる魅力だ。詳しい情報も無い中、長年彼のアトリエで集めてきた写真等を見ながら、彼の想像だけで看板を描いていく。深く考え込んだと思えば、激しく、そして軽快に絵筆をキャンバスに滑らしていく姿に、看板職人の魂を見つけ、思わずうっとりとしてしまった。
彼は、家族からオイル臭いと言われ、いつ仕事をなくすかという不安もありながら、自分の仕事に熱意を持ってキャンバスに向かい続ける。
毎日映画館の扉は開き、また閉まる。彼や映画館に関わる人物だけを描いたこのドキュメンタリーを見ていると、自らがすっかりムンバイの喧噪と熱気に包みこまれながら、彼の仕事を映画館のアトリエでじっと見つめている気さえした。
文=大間麻美
『オリジナル/コピー』(英題:Original Copy)
2015年/ドイツ/ヒンディー語、英語/95分
監督、脚本、制作:フロリアン・ハインツェン=ツィオープ、ゲオルグ・ハインツェン
撮影:エンノ・エンドリッハー
編集:フロリアン・ハインツェン=ツィオープ