東京・竹橋の東京国立近代美術館で、『藤田嗣治、全所蔵作品展示。』と題した収蔵品による企画展が開かれている。戦争画14点、映画1点を含む藤田嗣治(レオナール・フジタ)の同館収蔵品25点および京都国立近代美術館からの出品になる《タピスリーの裸婦》(1923年)を展示。コレクションの特集展示としてはかなり濃密な内容の企画だ。
戦争画の中でも《アッツ島玉砕》(1943年)などの作品については、これまでのコレクション展示でも目にする機会が多くあった。しかしこの企画では日中戦争に従軍した1930年代後半の作品や日本人が自決する場面を描いた《サイパン島同胞臣節を全うす》(1945年)などを含めた作品を一堂に展示。藤田が様々な意図で戦争画を描いたことが分かる貴重な空間を形成していた。
特に印象に残る展示がいくつかあった。まずは、14匹の猫が激しい動きで宙を舞いながら闘っている様子を描いた《猫》(1940年)を「戦争画」と位置づけていたこと。藤田の猫好きは有名だが、20年代の自画像や裸婦像に登場するような愛嬌のある猫とこの絵の猫は違う。この絵を「戦争画」とするのは、日中戦争がすでに始まっていた時代に描かれたことと、もともとは《争闘》という題がついていたことに基づく解釈だ。となれば、この絵に戦争に対する批判精神を見出すことも不可能ではないだろう。言葉によって絵の見方が変わる。そんな事例にもなるのではないか。
39年のノモンハン事件を題材にした《哈爾哈河畔之戦闘》(1941年)は、ソ連軍の戦車部隊を攻める日本軍の勇猛果敢さを如実に表した一枚。ところが、解説パネルによると、この絵には日本兵の死体が転がる別ヴァージョンが存在するとの証言が残されているという。それが事実なら、戦意を高揚させる絵ばかりを描いた画家とは言えなくなるかもしれない。戦争画家としての責任を一人で負って出国までした藤田の制作姿勢について、改めて考える契機になりそうだ。別ヴァージョンの実物がどこかに残っているとなおいいのだが。
藤田が監督した映画《現代日本 子供篇》は、日本を海外にPRすることを目的に外務省の依頼で制作されながらも、地方の貧しい姿を見せるなどといった理由で蔵入りになった短編。地方にこそ「日本」を見る民俗学的な視点が藤田にあったことを示す。一方で、子どもたちがちゃんばらや切腹の真似をするシーンがあり、戦争につながる時代背景を考える意味でも興味深い作品だった。
取材・文=小川敦生
■展覧会情報:『東京国立近代美術館「MOMATコレクション」特集 藤田嗣治、全所蔵作品展示。』
2015年9月19日〜12月13日、東京国立近代美術館本館4,3階「MOMATコレクション」内
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