【Webzineタマガ】知らない人へ花を贈るアートとは?〜リー・ミンウェイとその関係展/タマガ評

リー・ミンウェイ『ひろがる花園』(森美術館での展示風景)

リー・ミンウェイ『ひろがる花園』(森美術館での展示風景)

 「アートは鑑賞するもの」

 美術作品を前にしたときのそんな常識を心地よく裏切ってくれる展覧会が、東京・六本木の森美術館で開催中だ。タイトルは『リー・ミンウェイとその関係展:参加するアート―見る、話す、贈る、書く、食べる、そして世界とつながる』。「アートに参加する」という言葉が肝である。しかも、参加したうえで世界とつながるとはいったいどういうことなのだろう。期待を高めて同館に足を踏み入れた。

リー・ミンウェイ『ひろがる花園』(森美術館での展示風景)

リー・ミンウェイ『ひろがる花園』(森美術館での展示風景)

 展示されていた中に、『ひろがる花園』という“作品”があった。

 広い展示室に飾られた、色とりどりのガーベラの花。数十本はある。一体、何が「ひろがる」というのだろうか。不思議に思いながら鑑賞していると、こんな説明を受けて少し驚いた。「この花を一輪だけ、自由に持ち帰っていい」というのだ。ただし約束事が一つあった。「美術館からの家路で来た道とは別の道を通って、偶然出会った知らない人へこの花を贈ること」。「ひろがる」とはこの場で起こる出来事ではなく、美術館の外で花開く「人との出会い」のことだったのである。

 作者のリー・ミンウェイ(1964年~)は現在ニューヨークを拠点に活動している、台湾出身のアーティストだ。彼はこのように観客を参加させて作品を形成する「リレーショナル・アート」を1990年代後半から展開してきた。

リー・ミンウェイ『プロジェクト・ともに食す』(森美術館での展示風景、撮影:小川敦生)

リー・ミンウェイ『プロジェクト・ともに食す』(森美術館での展示風景、撮影:小川敦生)

 作品はどれもユニークだ。観客が持ってきた洋服や人形を壁に取り付けた糸と縫い合わせ、人と人のつながりを可視化した『プロジェクト・繕(つくろ)う』。展示室内に設けられた茶の間で、リーまたは美術館スタッフと1対1で夕食を交わす『プロジェクト・ともに食す』。極めつけは、展示室に特設された寝室で一夜を共にする『プロジェクト・ともに眠る』。当たり前にできる行動のはずなのに、なぜか緊張してしまいそうなプロジェクトばかり。リーの作品は人との関係性やつながりといったものを見つめ直すきっかけを与えてくれるのだ。

 また個展でありながら、他のアーティストの作品も数多く出品されていた。白隠、鈴木大拙、ジョン・ケージ、イヴ・クライン、小沢剛など。禅僧から思想家、作曲家、現代美術の作家まで。古今東西、ジャンルを問わず、リーの作品を読み解くヒントとなる参照作品も展示されている。

小沢剛『ベジタブル・ウェポン』(森美術館での展示風景)

小沢剛『ベジタブル・ウェポン』(森美術館での展示風景)

 様々な関係性が交錯して生み出されていくリーのアート。参加型作品には申し込みや抽選が必要なものもあるが、誰でも参加できる可能性が開かれている。美術館へただ鑑賞に行くのではなく、参加しに行く。アートとの新しい接し方をきっと見つけることができるはずだ。

 取材・文・写真=林勇太

 

■『リー・ミンウェイとその関係展:参加するアート―見る、話す、贈る、書く、食べる、そして世界とつながる』
2014年9月20日〜2015年1月4日
森美術館(東京都港区/六本木ヒルズ森タワー53F)
http://www.mori.art.museum/jp/

 


「タマガ」とは=多摩美術大学芸術学科フィールドワーク設計ゼミが発行しているWebzine(ウェブマガジン)です。芸術関連のニュース、展覧会評、書評、美術館探訪記、美術家のインタビューなどアートにかかわる様々な記事を掲載します。猫のシンボルマークは、本学グラフィックデザイン学科の椿美沙さんが制作したものです。