No Music No Art

 

 多摩美術大学芸術学科では、本学科の素顔を見せる雑誌『R』(編集長:小川敦生教授)の記事を電子版で配信いたします!


 芸術の中でも生活に溶け込みやすく、多くの人を魅了する音楽。本学科の教授や学生は、どのような音楽を愛し、どのような影響を受けたのかを語ってもらった。

【聞いたこと】好きなミュージシャン、アルバム、曲は?/音楽の聴き方は?(アナログ派・CD派・サブスク派・ライヴ派)/音楽が好きでよかったことは?


いくつになっても進歩できる

芸術学科教授  小川敦生

 教職以外に雑誌・新聞等の記事執筆もこなす小川敦生教授。多忙を極める中、音楽を聴くのにうってつけの場所があるという。「通勤中のカーステで音楽をよく聴く。没入できる環境がいい」。

 音楽を意識し出したのは小学生の時。「地元九州のテレビで見た市民オーケストラ演奏会の告知CMがきっかけだった」。静止画CMの背景で流れたドヴォルザークの交響曲『新世界より』に心がときめいた。すぐに「演奏会に行きたい!」と親にねだり、初めて体験した生のオーケストラは心を揺さぶった。その中でもとりわけ目立っていたのがヴァイオリンだった。一目で気に入り「この楽器を習いたい!」と再び親にねだった。以来ヴァイオリンは生活の一部となり、中学生の時には市民オーケストラへの入団も実現した。

 ヴィヴァルディの『四季』、ブラームスやプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲等、さまざまな音楽を聴いてきた。演奏家としては旧ソ連(現ウクライナ)のヴァイオリニスト、ダヴィッド・オイストラフがお気に入り。

 「3年前くらいからヴァイオリンのレッスンを再開した」。最近感じた驚きは「60代になっても技術が進歩したこと」。発表会では憧れのブラームスの協奏曲に挑戦した。

 

 

サンプリングの手法で知見を広める

芸術学科1年  松下祥真

 利用する音楽ストリーミング・サービスとしてはApple MusicとSpotify、さらにTidalとSoundCloud、独創的な音楽プレイヤーYZY Stem Playerも活用する芸術学科1年の松下祥真さん。特に前者3つは「低音の入り方などすべて違うため、曲によってサービスを使い分けている」とこだわる。

 最近のお気に入りは、2018年発売予定が音源の不法流出によって一度お蔵入り寸前になり、3年後に発表されたカニエ・ウェスト『Donda』。「アルバムのアイデアを得るために、彼は音楽だけではなく、アパレルや建築の研究もした。自宅をロサンゼルスからワイオミングに移して、ジェームズ・タレル等の現代美術の最先端を行くアーティストを招集し議論した」と他分野をサンプリングするように音楽に取り入れた過程を解説する。

 「日頃からヒップホップだけでなく、邦楽から洋楽まで幅広く聴いている」という。「それもヒップホップのサンプリングというカルチャーがきっと関係している。常に自分の学びであり、知見を広げてくれるツールになっている」。

 『Donda』では、制作過程の全てを追った。「カニエ・ウェストのものづくりに対する姿勢は異常なまでに貪欲。彼の精神性には、多摩美術大学での学びや、将来ものづくりをしていく上で参考になる大切なものが込められている」。

 

 

鋼鉄(ヘビーメタル)の衝撃

芸術学科1年 吉野日奈子

 音楽の聴き方が多様化し、ファッションと同じように、時間と場所、そのときの気分で曲を聴き分ける現代。芸術学科1年の吉野日奈子さんも同世代と同様にさまざまな音楽を聴き分けてきたが、「いつでもどこでも聴ける」バンドに出合ったという。1980年代から活躍する英国を代表するヘビーメタル・バンド、デフ・レパードだ。特に『Love Bites』という曲がお気に入り。

 「デフ・レパードの曲は、楽しい時も悲しい時も、いつどこで聴いてもフィットする。それが凄い!」。このバンドからは「言い切ることの大切さを学んだ」という。最初はSpotifyで聴くだけだったが「ある日、デフ・レパードのMV(ミュージックビデオ)はYouTubeに上がっているのか、とふと疑問に思い、検索するとワンサカ出てきた」。ベテランバンドの公式アカウントも見つけ、そこからは映像を見まくった。「MVがとにかくカッコいい。いや、少し不気味で意味不明でもある。ストーリーもあるのかないのか…。でも誰も文句は言えない。なぜなら、『やりたいことをしただけですが、なにか?』という強い言い切りがあるから」。

 「いい音楽に、さらに映像の説得力が加わると、こんな破壊力を生むのか…」。デフ・レパードとの出会いは、幾重にも衝撃的だった。

 

取材・撮影・文=吉田大志

 

※本記事は、『R』2023版(2023年3月15日発行予定)に掲載されます。