衣服デザイン界の巨人、三宅一生。デザイナーとして名前は知っていても、仕事の全容を見たという人はそうはいないだろう。東京・六本木の国立新美術館で開かれている『MIYAKE ISSEY展:三宅一生の仕事』は、三宅の仕事を見渡すことができる貴重な場を形成している。プリーツの服制作の実演や衣服を扱えるコーナーもあり、神髄に触れることができた。
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セクションAの展示風景。「タトゥ」の作品は存在感が大きい(国立新美術館「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」 展示風景 撮影:吉村昌也=写真4点とも)
展覧会は3つのセクションに分かれていた。セクションAは1970年代の作品。いきなり、〝タトゥ〟の作品が強烈な印象を放っている。日本のタトゥ=刺青は、アートの観点で論じると一つの揺るぎない世界を作っており、近年は海外でも注目されている。三宅のタトゥは、そんな伝統文化にいち早く目をつけ、衣服デザインの世界に解き放った表現だったのではないか。ポップに描かれた男女の顔の背後のくるくるとした模様が、タトゥの趣を醸し出している。これを着て街を歩けば、本物の刺青以上に注目をあびるだろう。
このセクションでは、長い通路に沿って作品が飾られている。それがファッションショーをほうふつとさせる。歩くだけで楽しい。ハンカチーフ・ドレス、コクーン・コートなどの往年の名作も並んでいる。ガラスケースに入っていないため、思わず触ってしまいそうになる。
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セクションBの展示風景。日本の編笠がこれほどファッショナブルになるとは驚きだ
セクションBは80年にスタートした「ボディ」シリーズの展示。このシリーズで三宅は、「服は着るための道具」という従来の常識を覆したのではないか。たとえば、日本の編笠や裃のような衣装をスケルトンで表現した作品。これらを「服として着られるか」と問われれば、大多数の答えは「No」だろう。それでいいのだ。大量生産・合理至上主義で白シャツにプリントされた文字だけを変える粗悪品が氾濫していた当時のファッション業界に、三宅は警鐘を鳴らそうとしていた…そんな思いさえ感じさせる吹き飛んだデザインだった。
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プリーツマシンからプリーツが出てきたところ。1枚の布から作り出されるところが興味深い
セクションCは大空間になっており、まるで舞踏会のような光景を作り出していた。もちろん服を着ているのはマネキンだが、一体一体に、いまにも動き出しそうな活力を感じたのだ。「素材」「プリーツ」「IKKO TANAKA ISSEY MIYAKE」「A-POC」「132 5. ISSEY MIYAKE」と「陰翳 IN-EI ISSEY MIYAKE」という5つのテーマの展示エリアの間には壁や順路を示す矢印はなく、観覧者は自由に行き来できる。
まるで紙工芸のような趣を持つ「プリーツ」を生み出すプリーツマシンの実演の場では、三宅の服づくりの神髄に触れることになるだろう。会場の一角では、1/2サイズのトルソーに「132 5. ISSEY MIYAKE」の1/2サイズの服を着せる体験もでき、三宅のデザインを観覧者は体感できるのだ。目から入ってくる情報だけでは、質感もわからなければ、衣服がどれくらい人間になじんでいるといったことを想像するのも難しいだろう。展覧会のあり方についても考えさせられた。
取材・文・レイアウト=笛木一平
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セクションCの展示風景。世界の国旗をあしらったプリーツが並ぶ様は壮観だ
『MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事』
国立新美術館(東京・六本木)、2016年3月16日〜6月13日
「タマガ」とは: 多摩美術大学芸術学科フィールドワーク設計ゼミが発行しているWebzine(ウェブマガジン)です。芸術関連のニュース、展覧会評、書評、美術館探訪記、美術家のインタビューなどアートにかかわる様々な記事を掲載します。猫のシンボルマーク「タマガネコ」は、本学グラフィックデザイン学科卒業生の椿美沙さんが制作したものです。