教員の部屋へようこそ〜安藤礼二教授

  多摩美術大学芸術学科では、本学科の素顔を見せる雑誌『R』(編集長:小川敦生教授)の記事を電子版で配信いたします!

学生に′′やりたいこと′′を見つけてもらう

学生時代から表現の探究を続けてきた安藤礼二教授。
探究の最中、さまざまな書き手と交流することにより自分なりの表現を得て、導かれるように民俗学や宗教の世界へ入ったという。
本学ではこれまでに得てきた経験や知識を授業で教えるだけにはとどまらず、学生の「やりたいこと」を深めるために積極的なコミュニケーションを図っている。


 文芸評論家として広く知られている安藤礼二教授は、「人間にとっての表現」を探究し続けている。学生時代は人間の表現の原型を探るために考古学を学び、卒業後は出版社に勤めてさまざまな書き手と交流したことが、自分の表現の獲得につながったという。その強烈な探究心は原初の表現へと向かい、研究対象としたのが折口信夫や柳田國男などの民俗学者だった。二つの賞を受賞した『折口信夫』(2014年)など、研究成果を書籍にすることが安藤教授の重要な表現形態となっている。

 民俗学の中では特に「祝祭」に関心があり、その理解のために神道や仏教など宗教についても研究している。そして研究対象として広がりを見せているのが、近年文芸誌に連載記事を発表している「空海論」と「アーカイヴ論」である。考古学を学び、出版社で書き手と交流して自分の表現を身につけ、民俗学者や宗教について研究し、執筆する。これらはすべて本学科で開講される授業の内容とも密接に関わっている。安藤教授が持っている講義系授業には「民俗芸術論」「文学」「アジア思想史」がある。どの授業も歴史性を重視しつつ、折口信夫や空海などの人物を中心に取り上げている。コロナ禍により、昨年は後期の授業のみZoomを使用したオンライン形式で実施した。演習系授業では「書物設計」を担当しており、本を読むことと文章を書くことにより、学生自身が表現したいことを深いレベルで達成することを目標にしている。安藤教授は授業で、「話し合い」を重視している。「書物設計」では学年末に1万2000字の論考を書いて冊子に掲載するので、学生たちも熱を入れて授業に臨む。授業中は学生同士の意見交換が活発で、教授と学生の1対1での面談も頻繁に行なっている。教授との対話は学生に気づきを与え、自身の表現の深化や洗練につながる。「民俗芸術論」や「文学」などのオンライン形式となった授業では、学生に感想を書いて提出してもらい、それに対して安藤教授がコメントをする形でコミュニケーションを図っている。研究テーマを自分で見つけて深めるのが大学生の本分である。しかし一人で立ち向かっても限界にぶち当たることは多いだろう。教授とのコミュニケーションは、その大いなる支えとなっているのだ。

 そんな安藤教授には、学生たちの指導をしていて思うことがあるという。「学生のうちから『早く自分の表現を確立させたい、オリジナリティを得たい』と焦る必要はない」ということだ。教授自身、30歳くらいから自分の表現の獲得を自覚したこともあり、「ゆっくりでも自分の好きなことや合っていることは見つかる」と言う。焦る学生をやさしく指導するスタイルと、学生自身の考えややりたいことを尊重する気持ちが伺える温かみのある言葉だった。

取材・文・写真=森分麻莉紗

安藤教授の著作『折口信夫』『列島祝祭論』『大拙』

安藤礼二(あんどう・れいじ)


1967年、東京生まれ。文芸評論家。大学時代の専攻は考古学。2002年、「神々の闘争──折口信夫論」で群像新人文学賞評論部門優秀作を受賞。日本近代思想史、民俗学などをベースに評論活動を始める。『神々の闘争折口信夫論』で05年度芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。14年に刊行した『折口信夫』が翌年、第13回角川財団学芸賞と第37回サントリー学芸賞を受賞。その他に著書として大江健三郎賞を受賞した『光の曼陀羅日本文学論』『大拙』『列島祝祭論』『迷宮と宇宙』など、編著書として『初稿・死者の書』、編集協力書として『西田幾多郎』『鈴木大拙』『空海』など多数。井筒俊彦『言語と呪術』には監修、翻訳、解説で参加。


 

※本記事は、『R』2022版(2022年3月15日発行)に掲載されたものです。